ビルのように価格(評価額)が高い不動産を相続する場合、支払う相続税も高くなりがちです。
税金が高いビルの相続だからこそ、節税対策は欠かせません。
いざ相続となった時に焦ることにならないよう、あらかじめ相続税の計算方法や節税方法を把握しておくと安心です。
この記事では、ビルを相続したときの対応の仕方・相続税の基本的な仕組み・税金対策・注意点などを詳しく解説します。
ビルを相続したら、まず何から考えればいいのか戸惑う方も多いでしょう。
最初に確認すべきポイントは、次の2つです。
ここからは、それぞれの選択肢について詳しく説明していきます。
ビルを相続したときにまず考えるべきことは、「売る」か「持ち続ける」かの2つに分かれます。
売却までのステップは、次のようになっています。
以下からは、こうした売却を進める際の基本的な流れと注意点について、順を追って説明していきます。
まずは、誰がビルを相続するのか、どのような形で相続するのかを家族・親族間で決めます。
相続の方法には、以下のような3つのパターンがあります。
分割方法 |
内容 |
---|---|
換価分割 |
ビルを売ったお金を相続人で分ける方法 |
代償分割 |
1人がビルを相続して、ほかの相続人に代わりにお金を払う方法 |
共同分割 |
複数人でビルを共有名義にする方法 |
ここでは、ビルを売ってそのお金を分ける「換価分割」を前提に説明を進めます。
ビルを売るためには、売る方の名義に変更する必要があります。
この手続きが「相続登記」です。
登記とは「この不動産は誰のものか」を公に登録することをいいます。
登記をしないと、売却もできません。
ビルを売却するには、不動産会社に仲介を依頼する必要があります。
このときは、相続や税金の知識がある不動産会社を選ぶのがおすすめです。
どれくらいの物件を扱った実績があるか(販売の仲介実績)を確認すると、参考になります。
数社と話をして、サービス内容や費用、広報方法(チラシ、ネット掲載など)を確認しましょう。
そのうえで、「媒介契約」という、販売をお願いする契約を結びます。
契約の形によっては、1社だけでなく複数の会社と契約できる場合もあります。
契約後は、業者が買い手を探すための活動を進めてくれるので、途中経過を確認しながら成約を待ちましょう。
無事に売却が決まってお金が入ってきたら、そのお金を相続人で分けることになります。
分け方は、事前に話し合って決めた「遺産分割協議」のとおりに行います。
あとから「言った・言わない」でトラブルにならないように、誰がいくら受け取ったかを示す記録や書類を残しておくことが安心につながります。
「ビルを売らずに自分で持ち続けたい」「安定した収入源にしたい」と考える方もいるでしょう。
その場合は、まず「固定資産税評価額」という、毎年の税金を計算するもとになる価格を確認する必要があります。
固定資産税評価額は、各自治体から毎年送られてくる納税通知書などで確認できます。
固定資産税は、ビルを所有し続ける限り毎年必ず支払う必要がある税金です。
この税金を払い続けられる経済力がないと、持ち続けることが難しくなるため、まずはそこを確認しましょう。
もし税金が払える見込みがあるなら、ビルに手を加えて(リフォームなど)テナントを入れ、家賃収入で利益を得ることもできます。
さらに踏み込めば、不動産コンサルタントに相談して、用途変更や建物の改装などを行い、新しいテナントビルとして再生することも可能です。
収益化のために法人(会社)を設立し、その会社を通してビルを管理するという方法もあります。
これは「資産管理会社」と呼ばれる仕組みで、節税やリスク分散に効果的な場合もあります。
ビルの相続は金額が大きくなる分、早めの判断が重要です。
あらかじめ方向性が決まっていれば、生前贈与や資産管理会社の設立など、選べる選択肢が広がり、ビルから安定した収入を得ながら節税対策もできるようになります。
ビルの相続税は、次の4つのステップに分けて計算されます。
ここからは、それぞれの計算の意味や考え方を詳しく見ていきましょう。
ビルの土地の相続税を出すときは、「その土地の値段はいくらなのか」をまず知る必要があります。
ただし、ここでいう「値段」とは、不動産屋が売買で使う金額(時価)ではなく、「相続税評価額」と呼ばれる国のルールに沿った計算によるものです。
その評価額の計算には「路線価」という考え方が使われます。
これは、道路に面した1平方メートルあたりの土地の価格で、毎年国税庁のホームページで公表されるもの。
計算の仕方は、以下の通りです。
路線価 × 土地の面積(平方メートル) |
また、ビルの土地にテナント(お店や会社)が入っている場合は、「借地権割合」という別のルールも加味して計算する必要があります。
さらに、土地の形や使い方によって、評価額に調整(補正)をかける場合もあるのです。
なお、路線価が設定されていない地域については「倍率方式」といって、以下のように、土地の評価額にあらかじめ決められた数字(倍率)をかけて求めます。
ビルの建物本体の相続税評価額は、「固定資産税評価額」という金額をそのまま使います。
これは、毎年市区町村から送られてくる「固定資産税の納税通知書」に記載されており、その金額を確認すれば問題ありません。
この評価額は、建物を新築したときの価格の50~70%程度で計算されることが多いです。
ビルが自宅ではなく、店舗や事務所として貸している状態であれば、評価額はさらに低くなります。
これは、自由に使えないという理由から、評価が減額されるためです。
具体的には、「貸家」と見なされた建物は、相続税評価額が一律で30%引きになります。
ここでは、「課税される相続財産の合計金額」がいくらになるのかを出します。
相続税の対象となる財産は、土地や建物だけではありません。
銀行の預金や現金、生命保険の死亡保険金なども対象になります。
特に、死亡保険金などは「みなし相続財産」と呼ばれ、見落としがちなので注意が必要です。
次に、「基礎控除」という、税金がかからない分を差し引きます。
基礎控除の計算方法は、次の通りです。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の人数 |
たとえば、配偶者と子ども2人の合計3人で8,000万円の財産を相続する場合、以下のようになります。
このように、控除後に残った3,200万円が「課税遺産総額」となり、課税遺産総額に対して相続税がかかってくることになるのです。
反対に、財産の合計が基礎控除の金額を下回れば、相続税はかかりません。
ここでは、実際に「いくら相続税を払うのか」を計算していきます。
まずは、法定相続分を元に、相続人がどれだけの財産をもらうことになるのかを割り出します。
たとえば、配偶者と子ども2人のケースだと、以下の通りです。
今回の課税遺産総額が3,200万円だとすると、それぞれの受取額は以下のようになります。
次に、下記の税率表にあてはめて、それぞれの税額を計算します。
取得金額 |
税率 |
控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 |
10% | 0円 |
3,000万円以下 |
15% | 50万円 |
5,000万円以下 |
20% | 200万円 |
1億円以下 |
30% | 700万円 |
2億円以下 |
40% | 1,700万円 |
3億円以下 |
45% | 2,700万円 |
6億円以下 |
50% | 4,200万円 |
6億円超 |
55% | 7,200万円 |
税率表を、先の計算結果に適用すると次のようになります。
最後に、実際の相続割合で再配分すると、正式な相続税額が確定します。
配偶者には「配偶者の税額軽減制度」という特例があるため、以下のようになります。
このように、相続税の負担は状況により大きく変わります。
配偶者がいる場合は、税額軽減制度の活用が重要なのです。
ビルを相続すると、建物や土地の評価額が高いため、相続税が思った以上に高くなることがあります。
そうした場合でも、以下のような制度を使えば、相続税を減らすことが可能です。
以下からは、それぞれの節税制度を詳しく説明します。
「小規模宅地等の特例」は、亡くなった人が事業で使っていた土地(ビルの敷地など)を家族が相続する場合に、その土地の評価額を最大80%まで減らすことができる制度です。
具体例を見てみましょう。
まず、以下の表は、計算の考え方です。
すべてテナントとして貸し出していた場合 |
評価額が50%減額される(事業用土地として) |
---|---|
半分を自宅、半分を貸しテナントとしていた場合 |
自宅の部分は「特定居住用宅地」として80%減額 テナント部分は「貸付事業用宅地」として50%減額 |
それぞれの評価額の計算結果は、次のようになります。
すべて貸していた場合:5,000万円 −(5,000万円 × 50%)= 2,500万円 |
自宅半分・賃貸半分だった場合: ・自宅部分:2,500万円 −(2,500万円 × 80%)= 500万円 |
なお、「小規模宅地等の特例」は、事業を継続する意思があることや、一定の要件を満たす必要があります。
事前に専門家に相談することが重要です。
「相続時精算課税制度」とは、生きているうちに不動産などを贈与するときに、最大2,500万円までは贈与税がかからないという特別な制度です。
この制度を使えば、将来値上がりしそうなビルを早めに子どもに贈与することで、将来の相続税を減らすことが可能です。
ポイントは、相続税の評価は贈与した時点の価格で固定されるという点です。
つまり、価値が上がる前に渡しておけば、それ以上の分には税金がかからないことになります。
ただし、注意点が以下の通りになっています。
相続時精算課税制度は、贈与された財産はすべて「相続時に合算」して税額が再計算されます。
生前に得したように見えても、相続時の計算次第で納税額が増える可能性もあるため、必ず税理士などと相談してください。
相続時精算課税制度を使えない場合でも、「暦年贈与」という方法を使って、少しずつビルの権利を渡すことができます。
暦年贈与は、毎年110万円までの贈与には税金がかからないという「贈与税の基礎控除」を活用する方法です。
不動産のように大きな財産でも、権利(持ち分)を少しずつ分けて贈与していくことが可能です。
たとえば、1/10ずつ贈与していけば、10年で全部を渡しきるようなこともできます。
ただし、暦年贈与は、「亡くなる3年以内に贈与されたもの」は相続財産として計算されるというルールがあるため、早いうちから計画的に行う必要があります。
また、不動産の持ち分を複数人で持つ場合には、売却や賃貸に関して全員の同意が必要になることがあるため、実務上の管理リスクも考慮すべきです。
ビルを相続するときには、建物そのものの状態だけでなく、中に入っているお店や会社(テナント)との関係や、ビルを持つことによって発生する責任など、事前に確認すべきことが次のようにあります。
以下からは、ビルを相続するときに確認しておくべき3つの注意点についてそれぞれ詳しく説明します。
ビルを相続すると、そのビルに入っているお店や会社(テナント)との契約関係もそのまま引き継ぐことになります。
だからこそ、相続前にテナントとの契約内容をしっかり確認しておくことが重要です。
たとえば、以下のような点がポイントです。
また、契約がもうすぐ終わりそうな場合は、更新するかどうかの確認や、賃料などの条件を見直す話し合いも必要です。
近隣の相場より明らかに安すぎる賃料設定になっていないかなど、再確認することで、将来の経営判断にもつながります。
ビルを相続すると、その時点で貸し主(賃貸人)としての責任や義務もすべて引き継ぐことになります。
こうした責任や義務を知らずにいると、あとで思わぬトラブルや費用が発生することもあるのです。
具体的に、ビル貸し主としての責任や義務とは次のような内容です。
特に、ほかに相続人がいる場合は、費用の負担や借金の返し方で揉めやすいため、誰がどこまで負担するのかを事前に明確に決めておくことが大切です。
相続をきっかけに家族や親族間で関係がこじれるケースも珍しくないので、相続人全員で話し合いをしておくと良いでしょう。
ビルを相続する際には、その建物が地震などに耐えられる構造になっているか(耐震性)や、建物の傷み具合を確認することも重要です。
特に注意したいのは、以下の点です。
もし耐震性が不十分だった場合は、入居者の安全に関わるだけでなく、地震保険への加入や入居希望者からの信用にも影響します。
また、建物が古くなっていてあちこち壊れていたりすると、大規模な改修工事が必要になる可能性もあるため、専門家の意見を取り入れて、現状を正確に把握しておくことが大切です。
耐震基準は1981年(昭和56年)に大きく改正されています。
1981年以前に建てられた建物は、「旧耐震基準」と呼ばれ、地震に対して弱いとされています。
昭和56年以前のビルを相続する場合は、必ず耐震診断を検討しましょう。
今回は、ビルの相続に関する注意点や節税の方法、税金の計算の流れなどを解説しました。
ビルは、普通の住宅に比べて金額が大きく、相続税の額や管理の負担も重くなるケースが多いため、できるだけ早い段階で対策を考えることが大切です。
おおまかな相続税の計算方法を知っておけば、「このくらい税金がかかりそうだな」という予測も立てられます。
そのうえで、生前贈与など節税効果のある方法を活用して、できるだけ無理のない形で相続を進めることが理想です。
静鉄不動産と専門士業の相続サポートセンターでは、これまで多くの相続相談を受けてきた実績があります。
その経験をもとに、それぞれの家庭の状況に合わせた最適な提案をしてくれます。
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