親が亡くなったあと、残された兄弟姉妹で悩んでしまいがちなのが実家や土地などの不動産をどのように分ければよいかという問題です。
実際に国税庁が令和5年12月に公表した「令和4年分 相続税の申告事績の概要」によれば、令和4年に相続申告された財産のうち、土地が31.0%、家屋が6.4%と、不動産が37.4%を占めています。
引用元:国税庁「令和4年分 相続税の申告事績の概要」
現金と違って不動産は均等に分けることが難しいため、相続財産のなかでも分割が難しい部類に入ります。
兄弟姉妹にトラブルなく分けたいが、どこから手をつければよいか分からず悩んでいるという方も多いのではないでしょうか。
この記事では相続した不動産を分割する方法や注意点を、初めて相続に向き合う方にも分かりやすく解説します。
相続で不動産を分割するときの基本ルール
民法において亡くなった方(被相続人)の財産は、法定相続人に引き継がれます。
財産には預貯金や有価証券だけでなく、不動産も含まれています。
不動産の相続は遺言があればその内容に従い、遺言がなければ民法で定められた順位と持ち分で相続人に分けられます。
それでは、不動産を分割するとき特有の基本ルールについてみていきましょう。
不動産は「現物分割」しにくい
相続における「現物分割」とは、財産をそのまま分けることを指します。
預貯金であれば持ち分ごとにきれいに分割できますが、土地や建物は実物があるので持ち分通りにきれいに分けることができません。
また、細かく分割することで土地の活用ができなくなったり、資産価値が低下する可能性も。
共有名義にしても権利関係が複雑になるので、デメリットのほうが大きくなるケースも珍しくありません。
「不動産の相続は難しい」といわれる理由のひとつは、こういった点にあるといえるでしょう。
誰か1人が全部もらうには「遺産分割協議」が必要
相続人のうち誰かひとりが不動産をすべて引き継ぐには、遺産分割協議を行う必要があります。
これは不動産に限らず財産を分割する際に必要なもので、相続財産を「誰が・どのように」引き継ぐのかを決めるものです。
相続人全員で話し合って不動産を誰か取得するかを決め、その内容を文書に記録し、その内容に従って相続手続きを進めていきます。
法定相続人の不動産持ち分
法定相続人の相続割合は、以下のように民法によって決められています。
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。引用元:民法第900条
まず法定相続人になれるのは配偶者・子(孫)・父母(祖父母)・兄弟姉妹(甥・姪)です。
誰が相続人になるかは相続順位によって決まりますが、配偶者は常に最上位の相続人になります。
法定相続分の持ち分は以下のようなものです。 最上位の相続人となる配偶者を起点に考えてみましょう。
相続人の組合せ |
配偶者の取り分 |
その他相続人の取り分 ※人数で均等に分ける |
---|---|---|
配偶者のみ | 全部 | なし |
配偶者と子ども | 2分の1 | 2分の1 |
配偶者と親(祖父母) | 3分の2 | 3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹 | 4分の3 | 4分の1 |
子ども(孫)のみ | なし | 全部 |
親(祖父母)のみ | なし | 全部 |
兄弟姉妹のみ | なし | 全部 |
子どもや兄弟姉妹が亡くなっている場合は、孫や甥・姪が相続人となります。
参考記事:相続人の順位はどう決まる?遺産の分け方やケースごとにポイントを解説
相続不動産の分け方は4つ
相続不動産を分ける方法として、次の4つが挙げられます。
- 代償分割
- 現物分割
- 共有分割
- 換価分割
ここでは、それぞれの方法について詳しく解説していきます。
代償分割
不動産を相続人のひとりが引き継ぎ、他の相続人には持ち分に相当する代償金などを渡す方法です。
相続人のひとりが不動産や家業を引き継ぐ場合などに、よく選択されます。
不動産を手放さなくてよいというメリットがある一方で、不動産を引き継いだ相続人の経済負担が大きくなるというデメリットもあります。
また、代償金の額によっては贈与税がかかる可能性もあるという点に注意が必要です。
原則として代償金は贈与税の対象にはなりませんが、相場とかけ離れていた場合には贈与とみなされる可能性があるため、その際には士業の専門家への確認が望ましいです。
現物分割
法定相続分に従い、不動産を分筆して分ける方法です。
不公平感が少ないというメリットはありますが、もともとの土地が狭かったり、建物が建っている場合など現実的には難しいケースが少なくありません。
また、土地を分割することで資産価値が下がってしまい、土地の活用に支障をきたす可能性もあります。
相続不動産がある程度広く、建物が建っていない場合などに用いられる方法です。
共有分割
相続人全員が共有名義で不動産を引き継ぐ方法です。
法定相続分に従って、それぞれの持ち分を登記簿に記載します。
すぐに不動産を手放さなくて済み、相続税の節約にもつながるというメリットがある一方、売却や解体に全員の同意が必要になるためトラブルに発展しやすいという問題も。
また、年数が経って共有者が亡くなった際に権利関係が複雑になりやすいというデメリットもあります。
換価分割
相続不動産を売却し、売却代金を相続人で分け合う方法です。
現物のままでは分けづらい不動産を、現金に換えることで法定相続分通りに分配できます。
相続人の間で意見がまとまらない場合にも有効な方法ですが、換価分割の前に、まずは不動産を相続人名義に相続登記する必要があります。
登記が完了していなければ、売却手続きができません。
また、不動産の市場価格の変動によって受け取れる金額が左右される点には注意が必要です。
相続不動産を分割する際の流れ
相続不動産を分割する際の流れは以下のようになっています。
- 遺言書の有無を確認する
- 必要書類を収集する
- 法定相続人を確定させる
- 相続財産を確定し、評価を行う
- 遺産分割協議を行う
遺言書の有無を確認する
まず最初に被相続人(亡くなった人)が遺言書を残していないか、よく確認しましょう。
遺言書は相続において非常に優先度が高い書類で、あとから遺言書が出てきた場合、相続手続を最初からやり直さなければならないことも。
遺言書の記載内容は法定相続分よりも優先されるため、たとえば「自宅は長男に相続させる」と記載があれば、そのとおりに登記を行うことになります。
ただし遺言内容がすべて通るわけではなく、相続人には最低限の取り分として「遺留分」が法律で認められています。
遺留分を侵す遺言については、裁判所に対して遺留分侵害額の請求調停を起こすことが可能です。
遺言がない場合は法定相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの財産をどのくらい引き継ぐかを話し合うことになります。
必要書類を収集する
一般的な相続に必要な書類として、以下のようなものが挙げられます。
- 被相続人の出生から死亡までが記載された戸籍謄本(全部事項証明書)
- 相続人全員の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 相続不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)
- 固定資産評価証明書
被相続人(亡くなった人)に複数の婚姻歴があったり、養子縁組を行っていた場合、必要書類を集めるのに時間や手間がかかるケースも少なくありません。
必要書類の収集は相続人同士で手分けして、できるだけ早めに取りかかることをおすすめします。
参考記事:相続不動産の登記に必要な書類とは?ケース別の書類一覧や注意点を解説
法定相続人を確定させる
戸籍謄本をもとに出生からの記録を辿り、法定相続人を確定させます。
以前の婚姻で設けた子どもや養子も、法定相続人として同じ権利を持つため、戸籍謄本を読み解いていく作業が必要です。
また、子や兄弟姉妹が亡くなっている場合は孫や甥・姪が代わりに相続人になります。
相続財産を確定し、評価を行う
土地の権利証や固定資産税の通知書等をもとに、相続財産を確定させていきます。
不動産の場合は評価額をもとに遺産分割協議を行うため、この時点で評価を行っていく必要があります。
評価方法として一般的なものは、以下のようなものです。
- 相続税評価額(路線価方式など):相続税の計算に使われる公的評価。売買価格より低めになることが多い
- 固定資産税評価額:市区町村が税額計算に使用する
- 時価(実勢価格):市場で売却する場合の価格
相続する不動産が複数あったり、評価が難しい場合は専門家へ相談するのもひとつの方法です。
遺産分割協議を行う
遺産分割協議は被相続人の財産をどのように分けるか話し合うもので、相続人全員が参加しなければならないものです。
特に不動産は法定相続分通りに分割するのが難しい部類に入り、不公平感が出たり感情の対立が起きやすいものです。
合意した内容を遺産分割協議書に記載しておくことで「全員で話し合って同意した」という根拠にもなります。
相続登記を行う
財産の分割方法が決まったら、不動産を相続する人の名義に書き換える相続登記を行います。
相続登記は2024年4月1日から義務化されており、「相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内」に登記を行わないと、10万円以下の過料が科されるおそれがあります。
(相続等による所有権の移転の登記の申請)
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権所有権を取得した者も、同様とする。
また、相続登記が終わらないと売却もできないので、期限内にかならず手続きを済ませましょう。
相続不動産の分割で揉めやすいのはどんなときか
不動産の相続は制度上の難しさや、平等に分けづらいという性質もあり、トラブルに発展しやすいものです。
ここでは、以下のようなトラブルについて事例と対策を解説していきます。
- 換価分割がうまくいかないとき
- 代償分割の資金がないとき
- 分け方で話し合いがまとまらないとき
- 寄与分や特別受益を主張されたとき
換価分割がうまくいかないとき
換価分割は不動産を売却した売却益を平等に分ける方法ですが、需要と供給のバランスや景気によって売却額が大きく変動するというリスクがあります。
また、どのタイミングで売却するかで相続人の意見が対立し、手続きが進められなくなることも。
こういった場合は、複数の不動産会社に査定を依頼しておおまかな相場を知るとともに、相続人間で情報をしっかり共有することが大切です。
代償分割の資金がないとき
代償分割は相続人のひとりが不動産を相続し、他の人には相続分に相当する代償金を渡す方法です。
ここで問題になるのが不動産を引き継ぐ人が代償金を用意できず、手続きがストップしてしまうという事態です。
こういった場合は分割払いの契約を結んだり、不動産を担保にして融資を受けて代償金を支払うことになります。
また、不動産以外の相続財産でバランスを取るという方法もあります。
分け方で話し合いがまとまらないとき
遺産分割協議がまとまらない時には、家庭裁判所の遺産分割調停を利用できます。
調停は裁判に進む前段階ともいえるもので、調停委員立ち合いのもとで互いの主張を整理しながら合意を目指します。
調停は自分たちだけで申し立てできますが、その前に専門家に相談してアドバイスを受けるのもひとつの方法です。
寄与分や特別受益を主張されたとき
「親の介護を長年続けていた」「他の兄弟は家を買う時に援助をもらっていた」など、生前の貢献や被相続人から受けた利益を相続分に加味してほしいと主張されるケースです。
寄与分や特別受益について民法903条、904条の2で次のように定義されています。
(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。引用元:民法第903条
(寄与分)
第九百四条の二 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。引用元:民法第904条の2
寄与分や特別受益を加味して相続分を修正した事例はありますが、実際に認められるケースは多くありません。
しかしこういった問題は長年蓄積された感情の問題でもあるため、法律論だけで納得するのは難しい部分も。
どうしても話がまとまらない場合は、専門家に相談することをおすすめします。
相続した不動産の分割をプロに相談したほうがよいケース
相続した不動産の分割において以下のような問題が起きている場合は、司法書士や弁護士といった専門家に相談することをおすすめします。
- 相続する不動産が複数あり、種類もさまざまある
- 相続人同士のトラブルが起きている
- 手続きを進める時間が取れない
- 書類収集が難航している
ここではそれぞれについて詳しく解説していきます。
相続する不動産が複数あり、種類もさまざまある
相続する不動産が複数ある場合、分割の難易度が一気に上がります。
物件ごとに今後の活用方法を決めたり評価額を算出するのは、広い分野の総合知識が求められます。
遺産分割協議から相続登記まで代行してもらうなら、司法書士に相談するとよいでしょう。
参考記事:司法書士に相続相談できる内容とは?費用相場や探し方を詳しく解説
相続人同士のトラブルが起きている
「話し合いがこじれてしまい、手続きが止まっている」「感情的になって話が進まない」という場合は、弁護士を代理人に立てるという選択肢があります。
専門家に間に入ってもらって情報を整理するだけでも、案外あっさりと合意を得られるケースも少なくありません。
また、話し合いがまとまらず裁判に発展した場合、代理人になれるのは弁護士だけです。
費用はかかりますが、裁判を見据えての話し合いであれば最初から弁護士に依頼するほうがスムーズに進むでしょう。
手続きを進める時間が取れない
相続は慣れない用語が多いだけでなく作業も煩雑なため、仕事や家事で忙しい人にとっては大きな負担です。
また、法務局などの官公庁は平日しか開いていないので、そのたびに休みを取らなければならないという問題も。
司法書士や行政書士に依頼すれば、必要書類の準備から法務局への申請まで代行してもらえるため、時間や労力を大きく節約できます。
書類収集が難航している
被相続人が複数回結婚していたり、養子縁組をしていると、必要な書類を集めるのが非常に煩雑になります。
戸籍謄本(全部事項証明書)を漏れなく集めるのは、相続手続において非常に重要なステップです。
専門家に依頼すれば書類収集も代行してもらえるので、ミスや漏れを防いでスムーズに手続きを進められるでしょう。
相続不動産をきれいに分割するには「正しい順番」を守り「冷静な話し合い」をすることが大切
不動産の分割は注意するべきポイントも多く、進める順番を誤るとトラブルに発展する可能性もあります。
静鉄不動産と専門士業の相続サポートセンターでは不動産の相続から活用・売却にともなう手続をサポートする「相続ワンストップサポート」を展開しています。
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