夫が亡くなったあと、家の名義をそのままにしておくと、将来の売却やリフォームの際に手続きが進まなくなったり、次の相続で手間が増えたりと、さまざまな支障が生じやすくなります。
こうしたトラブルを避けるためには、早めに法務局で相続登記(名義変更)を行うことが大切です。
この記事では、夫から妻へ家の名義を変更する際の手続きや必要書類、費用、注意点についてわかりやすく解説します。
相続税は基礎控除額を超える遺産を取得した場合、相続の発生と同時に申告と納税の義務が発生します。
基礎控除を超える可能性がある時は、早めに税務面の確認も進めておきましょう。
夫が亡くなったら、家の名義変更(夫から妻へ)が必要

夫が亡くなっても、不動産の名義は自動で妻に移る仕組みではありません。
家の持ち主が亡くなった時点で、その家は法律上の相続財産となり、名義を動かすには相続登記が欠かせません。
名義を放置すると、次の表のように売却や新しい住宅ローンの相談が進まなくなるなど、生活に支障が出るおそれがあります。
| リスクの種類 | 放置によって生じる主な影響 | 補足・具体例 |
|---|---|---|
| 他の相続人とのトラブル | 妻以外の相続人と共有状態となり、揉めごとの原因になる | 子や親族から「現金で分けたい」「賃料を払え」と主張される可能性がある |
| 不動産の処分・活用の制限 | 法的には故人の財産のままとなり、自由に使えない | 売却・担保・建て替え・リフォームなどができなくなる恐れがある |
| 手続きが複雑になる | 相続人が増えることで、遺産分割や登記が困難になる | 妻も亡くなった場合、妻側の親族まで関係者に含まれる |
| 法律違反による過料 | 相続登記を怠ると過料(10万円以下)の対象となる | 2024年4月以降の義務化により、3年以内の申請が必須(過去の相続にも適用) |
さらに、次の相続が起きた時に関係者が増えて話し合いが複雑になり、家に住み続けたい妻が困ってしまう可能性もあります。
安心した暮らしを守るためにも、早めに妻名義へ移す準備を進めることが大切です。
夫の死亡後に妻へ家の名義変更をする手順

夫から妻へ名義を移す流れは、次の通りです。
- 手順1:死亡の事実を証明する公的書類を取得する
- 手順2:相続人を確定する
- 手順3:遺言書の有無を確認する
- 手順4:遺産分割協議を行う
- 手順5:登記に必要な書類をそろえる
- 手順6:法務局で相続登記を申請する
以下からは、こうした各手順について詳しく見ていきましょう。
手順1:死亡の事実を証明する公的書類を取得する
相続登記を行うためには、夫の死亡を公的に示す戸籍一式が必要です。
戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍を本籍地の役所で集める必要があり、出生から死亡までの記録途切れずにそろっていることが重要です。
こうして身分関係がはっきりすれば、後の協議や登記で行き違いが生じづらくなります。
なお、戸籍の途中に抜けがあると法務局から問い合わせが入る可能性があり、手続きが滞るおそれがあります。
手順2:相続人を確定する
まず、相続人を確定させるところから始めます。
法律上、相続人になれるのは配偶者(妻)と一定範囲の血族です。
一般的なケースでは妻と子どもが相続人となり、子どもがいない場合は妻と夫の親(または親が既に亡くなっている場合は夫の兄弟姉妹)が相続人になります。
誰が相続人になるかで名義変更の手続きも変わるため、戸籍で確認しましょう。
手順3:遺言書の有無を確認する
次に、夫が遺言書を残していなかったか確認しましょう。
遺言書がある場合とない場合とで、名義変更手続きの進め方が異なります。
遺言書がある場合、内容に従って誰が家を相続するか決まります。
特に公正証書遺言で「妻に自宅を相続させる」と指定されていれば、家庭裁判所の検認も不要ですぐに登記手続きに使うことが可能です。
自筆証書遺言(夫が自書した遺言)の場合は、開封せずに家庭裁判所で検認手続き(遺言の存在と内容を確認する手続き)が必要です。
自筆証書遺言を家庭裁判所の検認前に開封すると、法律上5万円以下の過料の対象となるため、必ず押さえておきましょう。
検認を経て遺言書が有効と確認されたら、遺言書(自筆遺言なら検認済証明書付き、または公正証書遺言の正本/謄本)を添付して相続登記を申請します。
遺言によって妻が自宅の相続人と指定されている場合、後述する遺産分割協議は不要です。
一方、遺言書がない場合、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が自宅不動産を相続するか決める必要があります。
一般的には「自宅は妻が相続し、預貯金等のほかの遺産は子どもが相続する」などの形で合意するケースが多いです。
話し合いがまとまったら、話し合いの内容を「遺産分割協議書」という書面にまとめます。
遺産分割協議書には相続人全員の署名・実印押印・印鑑証明書が必要です。
書式に決まりはありませんが、記載に不備があると法務局で登記申請が受理されませんので注意しましょう。
遺産分割の話し合いは、相続人が妻が一人の場合(=他に相続人がいない場合)を除き必須です。
たとえ妻がその家に住み続ける予定でも、子どもなど他の相続人がいる場合は「妻が家を相続する」ことについて全員の同意(=遺産分割協議での合意)がないと、妻単独の名義に変更する登記はできません。
もし相続人の一人でも合意しない場合、協議は不成立となり、最終的には家庭裁判所での調停・審判といった法的手続きに進む可能性があります。
裁判にもつれ込むと解決まで長期間を要し、精神的・経済的負担も大きくなってしまいます。
こうした事態を避けるためにも、相続人間で早めに話し合い、円満に合意形成することが望ましいでしょう。
なお、相続人の中に未成年者がいる場合、その未成年者と他の相続人(たとえば母親である妻)との間で利益が相反するため、そのままでは有効な遺産分割協議ができません。
未成年がいる場合は、家庭裁判所で未成年者のための特別代理人の選任を受ける必要があります(専門的な手続きになるため、このケースでは司法書士や弁護士に相談してください)。
相続放棄をする人がいる場合(借金が多いなどの理由で相続を放棄する場合)、その人は初めから相続人でなかったものとみなされます。
ただし相続放棄は原則として夫の死亡を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きをすることが必要です。
また、放棄した人がいる場合は先述のとおり、その人の相続放棄受理証明書を登記申請時に添付することになります。
手順4:遺産分割協議を行う
遺言書が無い場合は、すべての相続人で話し合いを進めます。
家を妻が相続する形にする場合、相続人全員の同意が必要で、協議内容を書面にまとめた遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には所在地や家屋番号まで正しく記すことが重要です。
記載に誤りがあると法務局で受理されずやり直しとなり、時間と費用の負担が増えてしまいます。
手順5:登記に必要な書類をそろえる
遺産分割協議のあとは、法務局に提出する書類を用意します。
それぞれの書類名や取得先、目的などを以下にまとめました。
| 書類名 | 誰の書類か | 取得先 | 目的・用途 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 戸籍謄本(出生~死亡) | 夫(被相続人) | 本籍地の市区町村役場 | 法定相続人の確定 | 改製原戸籍・除籍謄本含む全期間分。転籍していれば複数の役場に請求必要。 |
| 住民票の除票 または戸籍の附票 | 夫(被相続人) | 最後の住所地の市区町村役場(附票は本籍地) | 登記簿上の住所との一致証明 | 附票や不在住証明と組み合わせて使う場合もあり。 |
| 相続人の戸籍謄本 | 妻・子など相続人全員 | 各人の本籍地の市区町村役場 | 相続人の身分確認 | 相続放棄者がいれば相続放棄受理証明書も必要。 |
| 相続人の住民票 | 妻・子など相続人全員 | 各人の現住所地の市区町村役場 | 現住所の確認・登記用 | マイナンバーなしで発行依頼する。 |
| 印鑑登録証明書 | 妻・子など協議参加者全員 | 各人の住所地の市区町村役場 | 実印押印とセットで提出 | 有効期限なしだが、取得は手続き直前が望ましい。 |
| 固定資産評価証明書 | 対象物件に関するもの | 所在地の市区町村役場(資産税課等) | 登録免許税の算定 | 不動産1物件に1通。納税通知書の課税明細で代用可の場合あり。 |
| 登記事項証明書(登記簿謄本) | 対象不動産 | 法務局(管轄局またはオンライン) | 登記内容の確認・申請書記載用 | 発行手数料は1通600円。 |
| 遺産分割協議書 | 相続人全員 | 自作(様式自由) | 分割内容を明文化 | 全員の署名・実印押印と印鑑証明書の添付が必要。 |
| 遺言書(存在する場合) | 夫(被相続人) | 公正証書:公証役場/自筆:家庭裁判所で検認後使用 | 故人の意思による分配指示 | 登記には正本または謄本を提出(原本は返却不可のため)。 |
| 相続関係説明図(省略可) | 被相続人と相続人の関係図 | 相続人または司法書士が作成 | 登記時に添付する図解資料 | 添付すると戸籍の原本を返却してもらえる。 |
| 法定相続情報一覧図の写し(任意) | 相続関係全体 | 法務局(被相続人の最終住所地管轄) | 相続人関係の公的証明書として活用 | 登記・銀行等で使い回せる。戸籍の代替資料として便利。 |
どの書類も提出先(法務局など)によって要否が異なる場合があるため、事前に提出先に確認した上で準備を進めるのが確実です。
評価証明書は市区町村で取得し、登録免許税の計算で使います。
必要書類が一つでも欠けると申請が進まず、予約した相談日が無駄になってしまう場合があります。
手順6:法務局で相続登記を申請する
書類一式が揃ったら、いよいよ法務局へ登記申請です。
申請方法は、法務局の窓口へ持参するほか、郵送申請やオンライン申請を利用することもできます。
初めての方や書類に不安がある方は直接窓口に行く方法がおすすめです。
法務局の受付窓口では登記相談員(司法書士や職員)による無料相談を予約制で受け付けている場合があるため、事前に問い合わせてみると良いでしょう(平日日中のみ。予約方法は各法務局によります)。
申請先となる法務局は、不動産の所在地を管轄する法務局です。
たとえば自宅が静岡県内にある場合、静岡県内の管轄法務局に申請します(※自宅の所在地と現在お住まいの住所地が異なる場合もありますので注意してください)。
申請時には、登録免許税と呼ばれる税金の納付が必要です。
窓口申請の場合、収入印紙を購入し申請書に貼付して納めます。
法務局に申請書を提出し、不備がなければ受理されます。
申請から完了までは通常1~2週間程度です。
登記が完了すると、後日「登記識別情報通知」(権利証に代わる12桁の暗号コードの通知書)が新しい名義人(妻)宛てに交付・送付されます。
こうして正式に登記簿上の所有者名義が妻に変更され、名義変更手続きは完了です。
登記完了後は、念のため法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得しましょう。
名義人が自分(妻)に変わっていることを確認できます。
今後、不動産を売却したり相続したりする際には取得した登記事項証明書が必要になります。
夫の死亡後に妻へ家の名義変更をする際にかかる費用

夫の死亡後に妻へ家の名義変更をする際にかかる費用についてまとめました。
- 登録免許税の目安
- 司法書士へ依頼する場合の費用相場
- 自分で行う場合の実費
ここからは、それぞれの費用について解説します。
登録免許税の目安
相続登記の申請時には、まず「登録免許税」という税金を納めます。
登録免許税は国に納める税金で、不動産の価値に一定税率をかけて算出します。
相続による所有権移転登記の場合、税率は固定資産税評価額の0.4%(1000分の4)です。
評価額とは、市区町村から毎年送付される固定資産税課税明細書に記載されている「価格」のことで、登記の際はこの評価額を基準に税額を計算します。
固定資産税評価額が2,000万円の家の場合、以下のようになります。
登録免許税 = 2,000万円×0.4%=8万円
登録免許税は不動産の土地・建物それぞれに課税されます。
自宅敷地(土地)と建物の両方がある場合、それぞれの評価額に対して0.4%ずつ課税される点に留意しましょう。
なお、登録免許税にはいくつか軽減・免除措置もあります。
たとえば、相続した土地の評価額が100万円以下であれば、その土地に関する相続登記の登録免許税は非課税(免税)とされています(この特例措置は令和9年〈2027年〉3月31日までの時限措置です)。
第84条(相続に係る所有権の移転登記等の免税)
第八十四条の二の三
(略)
2 個人が、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の施行の日から令和七年三月三十一日までの間に、土地について所有権の保存の登記(不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第二条第十号に規定する表題部所有者の相続人が受けるものに限る。)又は相続による所有権の移転の登記を受ける場合において、これらの登記に係る登録免許税法第十条第一項の課税標準たる不動産の価額が百万円以下であるときは、これらの登記については、登録免許税を課さない。引用元: 租税特別措置法 | 第84条の2の3第2項)
また、相続登記をしないまま相続人が亡くなり二次相続が発生しているケースでは、最初の相続分の登録免許税が免税になる特例もあります。
該当するケースでは法務局や専門家に確認すると良いでしょう。
登録免許税以外にかかる法定費用としては、以下のように各種証明書の発行手数料があります。
- 戸籍謄本・除籍謄本:1通450~750円程度(書類の種類や自治体によって異なる)
- 住民票・住民票除票:1通300円程度
- 印鑑証明書:1通300円程度
- 固定資産評価証明書:1通200~400円程度(自治体による)
- 登記事項証明書(登記簿謄本):1通600円
以上は目安ですが、概ね必要書類の取得実費はトータルで数千円~1万円以内に収まることが多いです。
まとめると、妻が自分で相続登記を行う場合にかかる費用は、おおむね「登録免許税+各種証明書の発行手数料」です。
司法書士へ依頼する場合の費用相場
「自分で手続きをするのは不安」「平日の日中に役所や法務局に行くのが難しい」という場合、司法書士や一部の行政書士に手続きを依頼することもできます。
専門家に依頼すればその分報酬費用が発生しますが、手続きを安全かつスムーズに完了できるメリットがあります。
相続登記の申請代理業務を法的に行えるのは司法書士(または弁護士)です。
司法書士に依頼した場合の一般的な相場は不動産1件あたり約5~10万円前後です。
不動産の数が多かったり相続人が多数いるケースでは追加料金が発生することもあります。
行政書士は登記申請そのものは代理できないものの、戸籍収集や遺産分割協議書の作成など準備部分をサポートしてくれます。
行政書士に依頼する場合は3~7万円程度が目安です(別途、最終的な登記申請は司法書士に引き継ぐか、自分で行う必要があります)。
専門家に支払う報酬は決して安くありませんが、その分以下のようなメリットがあります。
- 書類の不備やミスを防げる(プロのチェックにより登記申請が一度で通りやすい)
- 煩雑な戸籍の読み取り・収集を代行してもらえる
- 相続人への連絡・調整もサポートしてもらえる場合がある
- 平日に何度も役所や法務局に赴く手間が省ける
- 登記完了後も、不動産の有効活用や相続全般について相談に乗ってもらえる
実際には「安心と時間を買う」意味で専門家に任せる方も多いです。
特に、不動産が複数ある場合や相続人間の調整が必要な場合、また書類作成に自信がない場合は、司法書士への依頼を検討すると良いでしょう。
依頼する際は事前に見積もりを出してもらい、報酬額や対応内容を確認してから正式に依頼することをおすすめします。
自分で行う場合の実費
相続登記の手続きを自身で行う場合、必要となる費用は比較的少額で収まるケースがほとんどです。
具体的には、戸籍謄本の取得費(1通あたり450円程度)や固定資産評価証明書(300〜400円程度)、郵送での取り寄せにかかる送料などを含め、全体として数千円〜1万円ほどが目安となります。
費用面では抑えられる一方で、書類に不備があった場合は再提出が必要となり、法務局に何度も足を運ぶことになりかねません。
時間的な負担や手間を考えて、事前の準備と確認を丁寧に行うことが重要です。
夫の死亡後に妻へ家の名義変更する際に押さえておくべき注意点

夫の死亡後、家の名義変更を妻に変更する際は、以下の点に注意しましょう。
- 遺言書の有無で手続きが異なる
- 他の相続人の同意・協力が必要
- 相続放棄・限定承認も視野に入れる
- 2024年施行の相続登記義務化・同期限に注意する
- 妻が住み続けるための制度を知っておく
以下からは、それぞれについて詳しく解説します。
遺言書の有無で手続きが異なる
前述のとおり、遺言書がある場合とない場合で名義変更の進め方は大きく異なります。
公正証書遺言が残されていた場合は、基本的に遺言の内容どおりに名義変更が可能です。
他の相続人との協議は不要で、妻が受取人に指定されていればそのまま妻名義に登記できます。
一方、遺言書がない場合は相続人全員で遺産分割協議を成立させなければ、妻単独の名義にできません。
自筆遺言書が出てきた場合も、すぐに登記に使えるわけではなく家庭裁判所での検認が必要になる点に注意してください。
遺言書があるかどうか不明な場合は、念のため法務局の遺言書保管制度(自筆遺言書を法務局で預かってもらう制度)に預けられていないか確認したり、故人の関係する公証役場で公正証書遺言の有無を照会したりすることも検討しましょう。
他の相続人の同意・協力が必要
自宅を含む不動産は高額資産です。
法律上はたとえ配偶者であっても、自宅は故人の遺産の一部として他の相続人と共有の財産になります。
そのため、妻が単独で不動産を相続するには、子どもなど他の法定相続人全員の合意が必要です。
合意内容は遺産分割協議書にまとめ、全員が実印で署名押印する形で確認します。
協議書が整っていない限り、法務局は妻だけへの名義変更登記を受理しません。
特に不動産以外にめぼしい遺産がないような場合、他の相続人(子ども)が「自宅は母に譲る代わりに他の財産も少ない」という状況になりがちです。
その場合でも、一筆でも構わないので遺産分割協議書には子どもの取り分も明記し、必ず全員が押印しましょう。
もし相続人の中に協議に参加できない人(行方不明者など)がいる場合や、どうしても話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることになります。
そうなると解決までに時間がかかり、費用も専門家報酬等が追加で必要になります。
早期に当事者同士で円満解決できるよう、情報共有と譲歩も含めた話し合いを心がけましょう。
相続放棄・限定承認も視野に入れる
家と同時に住宅ローンや借金などが残っている場合、あるいは不動産が老朽化して維持費・固定資産税等の負担が大きい場合には、相続自体を放棄する選択肢もありえます。
相続放棄をすると初めから相続人ではなかったことになるため、その家を相続せず名義変更もしないことになります。
ただし、相続放棄すると他の財産(プラスの遺産)も一切受け取れなくなる点に注意が必要です。
また、放棄は夫の死亡を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きをする必要があります。
他に、相続財産より負債の方が多いか不明な場合には、限定承認(負債は相続財産の範囲内で支払うことを条件に相続する手続き)という制度もあります。
限定承認は相続人全員で行う必要があるためハードルは高めです。
しかし、一部だけ相続放棄することはできないため、状況によって検討されることがあります。
こうしたケースは特殊な手続きのため、該当しそうな場合は早めに専門家(司法書士や弁護士)に相談してください。
相続放棄や限定承認をした相続人がいる場合、前述のようにその証明書を登記の際に添付する必要があります。
2024年施行の相続登記義務化・同期限に注意する
改めて強調しますが、2024年4月1日以降、相続登記は法律上の義務となりました。
夫の不動産を相続した場合、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
「取得を知った日」とは通常、被相続人が亡くなった日(または遺産分割協議でその不動産を取得すると決まった日)を指します。
正当な理由なくこの期限を過ぎると、最大で10万円の過料(罰則)が科される可能性があります。
なお、この義務は過去の相続にも遡及適用されるものです。
たとえば何年も前に夫が亡くなって家の名義変更をしていない場合でも、2024年4月1日時点で未登記であれば、その日から起算して3年以内(=2027年3月末まで)に申請しないと義務違反となります。
施行前から長期間放置していたケースでは特に注意が必要です。
「忙しくて手続きできなかった」「知らなかった」では済まされないため、まだ名義変更を済ませていない方は計画的に手続きを進めましょう。
どうしても自分では対処が難しければ、早めに司法書士など専門家に相談し、協力を仰ぐことをおすすめします。
妻が住み続けるための制度を知っておく
もし相続人間の事情で妻が自宅の所有権を相続しないケースがありうる場合(たとえば、「自宅建物は子どもが相続するが、妻がそのまま住めるようにする」等)、「配偶者居住権」という制度があります。
配偶者居住権とは、2020年の法改正で創設された権利で、亡くなった配偶者(夫)名義の家に引き続き妻が無償で住み続けられる権利です。
たとえ家そのものは子どもが相続した場合でも、妻は終身または一定期間、その家に住み続けることが可能になります。
ただし、配偶者居住権を設定するには遺言で明記するか遺産分割協議でその旨を取り決める必要があります。
また配偶者居住権を登記しておかないと第三者に対抗できません。
配偶者居住権の登記がされていないと、その家を子どもが売却してしまった場合に妻の居住権が保護されない恐れがあります。
配偶者居住権は相続人間の調整策として有効ですが、妻に確実に住まいを残すには、妻自身が所有権を相続するのが安心であることに変わりはありません。
いずれにせよ、妻が引き続き安心して住み続けられるようにするためには、法律上の手続きを適切に踏むことが大切です。
名義変更を含めた相続手続きを怠ると、時間・お金・人間関係の面で将来大きな問題を招く可能性があります。
夫から妻へ家の名義変更をする際によくある質問

名義変更の場面では、実際に多くの方が同じような疑問を持たれます。理解しやすいように、次の質問をまとめます。
- 家の名義変更をせずに妻が住み続けられる?
- 夫の遺言がない場合はどうすれば良い?
- 家を共有名義にするとどんなデメリットがある?
- 家の名義変更にはどのくらいの期間がかかる?
- 家の名義変更は自分でできる?
以下からは、こうした疑問について詳しく見ていきましょう。
家の名義変更をせずに妻が住み続けられる?
相続登記をしていない場合でも、妻がそのまま家に住み続けること自体に問題はありません。
ただし、不動産の登記名義が夫のままでは、法律上の所有者とは認められず、将来的に不都合が生じる可能性があります。
たとえば、家を売却して老人ホームの入居資金に充てたいと考えても、名義が夫のままでは契約に進めず、売却ができないといった事態になりかねません。
家を担保に融資を受けたい場合も、同様に手続きが滞る可能性があります。
こうしたトラブルを防ぐためにも、できるだけ早めに相続登記を行い、妻の名義へ変更しておくことが重要です。
夫の遺言がない場合はどうすれば良い?
夫が遺言書を残していなかった場合は、相続人全員で話し合い、家を誰が相続するのかを決める必要があります。
話し合いの結果は「遺産分割協議書」という書面にまとめ、全員が署名し実印を押すことで法的に有効な合意となります。
遺産分割協議書がなければ、法務局での名義変更手続きは受理されません。
そのため、丁寧かつ確実に進めることが大切です。
また、協議がまとまらないまま時間が経過すると、次の相続が発生して関係者が増え、手続きがさらに複雑化するおそれもあります。
できるだけ早めに話し合いを始め、スムーズな合意形成を目指すことが安心につながります。
家を共有名義にするとどんなデメリットがある?
家を複数の相続人で共有名義にすると、売却やリフォームなどを行う際に、すべての共有者の同意が必要です。
一人でも反対したり、連絡が取れなかったりすると、手続きを進めることができず、生活に支障をきたしてしまうかもしれません。
たとえば、雨漏りなどで早急な修理が必要な場面でも、共有者全員の同意が得られなければ工事に着手できず、結果的に建物の傷みが進んでしまう恐れもあります。
こうしたリスクを避けるためにも、相続の段階で妻単独の名義に整えておくことが、将来的な安心につながります。
家の名義変更にはどのくらいの期間がかかる?
名義変更にかかる期間は、戸籍などの必要書類をそろえるのに1〜2週間、法務局での手続きに2〜3週間程度が一般的です。
全体としては、準備から登記完了までおおよそ1〜1.5か月を見込んでおくと良いでしょう。
ただし、相続人の人数が多い場合や、提出書類に不備がある場合には、手続きのやり直しが発生し、さらに時間がかかる可能性があります。
スムーズに進めるためにも、早めの準備と正確な書類確認が重要です。
家の名義変更は自分でできる?
相続登記の手続きは、ご自身で進めることも可能です。
ただし、相続人が多いケースや書類の内容が複雑な場合には、申請が受理されず、やり直しとなることもあります。
たとえば、戸籍に抜けがあったり、不動産の情報が登記簿と一致していなかったりすると、法務局から補正の連絡が入り、追加の手続きが必要になります。
こうした手間や不安を避けたい場合は、司法書士に相談するのも一つの方法です。
専門家のサポートを受けると、手続きをより確実に進めることができます。
家の名義変更(夫から妻へ)は早めに、静鉄不動産と専門士業の相続サポートセンターまで相談を!

夫から妻への名義変更は、時間が経つほど書類が増え、関係者も増え、手続きが複雑になりやすいです。
相続登記の義務化によって三年以内の申請が必要となった今、早めに動くことが安心につながります。
名義変更を先延ばしにすると、相続人が増えてしまい、話し合いが難しくなる場合があります。
たとえば次の相続が発生すると相続人が2倍近くに増え、誰に連絡すればよいかわからず、協議が進まなくなる方もいます。
期限を過ぎれば過料の心配も出るため、早めの行動を心がけましょう。
書類の集め方や話し合いの整え方に迷った時は、静鉄不動産と専門士業の相続サポートセンターにご相談ください。
相続登記や書類整理に慣れた士業と連携しており、状況に合わせた段取りを整理しながら、無理のない形で名義変更を進められる体制をご用意しております。
家の状態や相続人の人数に応じて、事前に確認すべき点を丁寧にご案内いたしますので、まずはお問い合わせください。
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