マンションを相続する際には相続評価について知る必要があります。
しかし、相続は何度もあることではないため、初めてのことで何から始めれば良いのかわからない方も多いのではないでしょうか。
相続税評価額の算出が正しくできないと、相続税を過剰に取られる可能性もあります。
この記事では、自分が相続するマンションがどれくらいの評価額になるのか、調べ方と算出方法を解説します。
相続税評価額とは、相続税を算出するために必要になる相続財産の評価額です。
現金だけでなく、マンションや土地といった不動産も、国税庁が定める評価方法に基づいて金額に換算され、その価値が決定されます。
マンションの相続税評価額は、土地と建物をそれぞれ個別に評価して算出します。
マンションの場合でも、専有部分だけでなく敷地の持分(共有部分の土地)があるため、建物だけでなく土地の評価も忘れずに行うことが重要です。
また、故人が使用していたマンションと賃貸に出しているマンションでは算出方法が異なります。
正確に計算を行うには専門的な知識が必要ですが、おおよそであればご自身でも計算が可能です。
建物の相続税評価額は固定資産税評価額と同額です。
マンションの建物の評価額=固定資産税評価額 |
固定資産税評価額は毎年3~4月ごろに行政から送られてくる「固定資産税納税通知書」に記載されています。
固定資産税納税通知書の「家屋」の項目内に記載されている「価格」または「評価額」に当たる部分が建物の固定資産税評価額です。
市区町村によって記載様式は多少異なります。
固定資産税納税通知書が見当たらない場合は、マンションが所在する地域の役所で「固定資産税評価証明書」を取得すれば確認ができます。
まずは簡単にわかる建物部分から確認をしてみましょう。
マンションの土地は、同じ建物を所有する人たちの共有名義となっています。
個人の持分を調べるには、敷地全体の土地評価額の算出も必要です。
土地の評価額を計算する方法は、「路線価方式」と「倍率方式」の2種類があります。
路線価とは、道路に接している土地の1平方メートルあたりの価額のことです。
地域ごとに異なる路線価が設定されており、地方よりも主要都市のほうが高い傾向にあります。
所有地の路線価は国税庁のホームページで確認ができますが、路線価が設定されていない地域も珍しくありません。
設定されていない場合には倍率方式で計算を行ない、設定がされている場合は路線価方式を用います。
マンションの土地の相続評価は、以下の流れで行います。
それぞれの算出方法を詳しく解説します。
まずは国税庁の路線価図・評価倍率表を見て、マンションの敷地の路線価図を確認しましょう。
敷地に路線価が設定されていたら、路線価方式を使って次のように評価額を計算します。
敷地全体の土地の評価額=路線価 × 土地の面積 |
路線価を見ると100Dなどの数字が記載されていますが「100D=10万円」という意味です。
1平方メートルあたりの土地の価額が10万円であることを表しています。
次のケースを例に挙げて計算してみましょう。
このケースを計算式に当てはめると、「10万円 × 500平方メートル=5,000万円」です。
この計算方法でマンションの敷地全体の評価額は5,000万円だとわかります。
路線価は元の所有者の方が亡くなった年に更新されたものを使いますが、路線価が公表されるのは毎年7月ごろです。
もし1月に亡くなったとしてもその年の路線価は7月に公表されるため、正確な計算は7月にならなければできません。
敷地に路線価が設定されていない場合は、倍率方式で計算を行います。
倍率方式は、次の計算方法で算出できます。
敷地全体の土地の評価額=土地の固定資産税評価額 × 一定の倍率 |
倍率方式は、土地の固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて計算します。
ほとんどの土地では倍率が1.1倍ですが、必ず国税庁の路線価図・評価倍率表で確認をしましょう。
土地の固定資産税評価額は、毎年送られてくる「固定資産税納税通知書」か、市区町村で取得する「固定資産税評価証明書」で確認が可能です。
敷地権割合とは、マンションの一室を所有している場合に、個々が所有する敷地権の割合のことです。
敷地権割合は法務局で取得する「登記事項証明書」に記載されています。
以下の計算式に敷地権割合を当てはめて評価額を算出しましょう。
マンションの土地評価額=敷地全体の評価額 × 敷地権割合 |
ここで算出されたものが、個人の持分となるマンションの土地評価額です。
マンションの相続税評価額の概算は先述したSTEP2までですが、さらに正確に計算しようとすると特例や補正率の適用も必要です。
補正率は形が整っていなかったり間口が狭かったりと、使いにくい土地の評価額を減額させるためのものです。
特例は相続時に控除を受けられるもので、補正率と共に適用されれば相続税の減額が期待できます。
補正率や特例は種類が多く適用条件も計算方法も難しいため、専門家でないと算出は困難です。
詳しくは後述する「相続税の節税対策5選」の項目で解説します。
マンションを有償の賃貸マンションとして第三者へ貸し出している場合には、相続税評価額の計算方法は異なります。
賃貸マンションは、所有者が自由に使えない制限のある不動産として評価額が下がります。
土地には借地権、建物には借家権が設定されてそれぞれ控除が可能です。
マンションの1室を所有して賃貸にしている場合、評価額は以下の方法で算出されます。
建物部分 |
自己使用の場合の建物評価額 × (自己使用の場合の建物評価額-借家権割合) |
---|---|
敷地部分 |
自己使用の場合の土地評価額 ×(自己使用の場合の建物評価額-借地権割合×借家権割合) |
自己使用の場合の建物評価額は、前項目で紹介した計算方法で算出したものです。
借地権割合は地域ごとに30~90%の間で設定されており、国税庁の路線価図・評価倍率表で確認ができます。
貸家割合は全国一律30%で定められています。
マンションの建物1棟を所有して賃貸にしている場合は、次の計算方法で評価額を算出します。
建物部分 |
自己使用の場合の建物評価額×(自己使用の場合の建物評価額-借家権割合×賃貸割合) |
---|---|
敷地部分 |
自己使用の場合の土地評価額×(自己使用の場合の建物評価額-借地権割合×借家権割合×賃貸割合) |
マンション1室の場合との違いは、マンション1棟の計算では賃貸割合を掛けるところです。
賃貸割合とは、有償の賃貸にしている部屋の割合です。
部屋数が10部屋のマンションで2部屋を所有者が使い、残り8部屋を賃貸にしている場合は賃貸割合が80%となります。
2024年にマンションの相続税評価方法に改定がありました。
マンションを売却するときの時価と評価額の差を小さくすることが目的です。
同じ建物内でもタワーマンションなどは最上階に近いほど時価が高く、低層階のほうは時価が低い傾向にあります。
時価に差があるのに、階数に関係なく相続税評価額は同じだったため、相続税対策として上層階を所有するケースが多く見られました。
今まで高層階は相続税評価額が時価の6割未満になっているところもありましたが、改定によって6割まで引き上げられました。
高層階の相続税評価額に市場価値が反映されたため、評価額が上がった分、相続税額も増えたことになります。
マンションの相続税評価額は相続税の額を算出するために必須ですが、マンションの評価額だけでは相続税は計算できません。
相続税はマンションの相続税評価額のほかにも、現金や預貯金、有価証券なども含まれます。
相続の対象となる財産を全て合算した金額をもとに、相続税額を算出します。
相続時に全ての場合において相続税が発生するわけではありません。
相続税の算出には「基礎控除」というものがあり、相続財産の合計が基礎控除額より低ければ相続税はかかりません。
基礎控除額は法定相続人の数によって異なり、下記の計算式で基礎控除額がわかります。
基礎控除額=3,000万円+600万円 × 法定相続人の数 |
法定相続人とは、民法で定められた遺産を相続できる人のことです。
亡くなった方に妻と子がいれば、その妻と子が法定相続人になります。
それぞれの控除額は3,600万円と4,200万円となり、相続財産の合計が控除額以下なら相続税はかかりません。
相続税が発生する場合には、課税対象となる額の10〜55%の相続税がかかります。
遺産総額から前項で算出した控除額を引き、その額に対してのみ相続税が課税されます。
以下のケースを例に挙げて計算してみましょう。
遺産総額1億円から控除額4,200万円を引いた、5,800万円が課税対象となります。
子2人で半分ずつ遺産を分けると、それぞれの相続額は2,900万です。
下記の表を見ると2,900万円に対しての課税率は15%、控除額は50万円なので次の計算式で算出できます。
「2,900万円 × 15%-50万円=385万円」で、相続税は385万円です。
課税対象額 |
税率 |
控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
マンションの相続税を安くするためには、特例や土地の補正率を適用させて評価額を下げる必要があります。
無条件で適用できるものではないため、自身が相続するマンションに当てはまるかどうかを確認しましょう。
小規模宅地等の特例とは、自己所有の家をもたない相続人が故人の家を相続する際に、土地の評価額を下げる特例です。
最大80%も評価額が減額されるため、特例を適用させると多いときには相続税が数千万円変わることもあります。
適用条件は、以下のとおりです。
別名「家なき子特例」ともいわれ、持ち家のない相続人が故人の家を相続しやすいようにするための特例です。
細かい条件はほかにもあるため、特例が適用できるかは専門家に相談をしましょう。
分譲地によく見られる敷地の一部が公共の私道となっている土地では、私道を個人で自由に使えない分、評価額を下げることができます。
「地積規模の大きな宅地の評価」といわれ、対象になる土地は通常の評価額に「規模格差補正率」という補正率を加えます。
適用されるのは三大都市圏では土地の面積が500平方メートル以上で、三大都市圏以外では1,000平方メートル以上です。
マンションの土地でも適用が可能なので、当てはまる場合は国税庁のホームページで細かい条件を確認してみましょう。
補正率を適用させれば相続税評価額を下げることができ、相続税対策になります。
土地の形状がいびつで使いにくい場合には、補正率を適用して評価額を下げることができます。
土地の補正率をいくつか例に挙げると次のようなものがあります。
奥行きが長すぎたり短すぎたりして使いにくい土地や、斜面にあるがけ地といわれる土地など、対象となる土地はさまざまです。
同じがけ地でも角度が30度以上であることが条件で、斜面がどの方位に向いているかによっても補正率は変わります。
奥行補正率も奥行の長さによって適用される補正率は異なります。
補正率は土地の状況によって細かく変動するため、国税庁のホームページを見ても複雑でわかりにくいのが現状でしょう。
適用されれば相続税を安くできる可能性がありますが、自分で算出するのは困難といえます。
相続税の申告時に配偶者控除を受ければ大幅な節税対策になります。
配偶者(夫や妻)が相続する場合に、課税対象の遺産総額が1億6,000万円までは相続税がかからないのが配偶者控除です。
相続人が戸籍上の配偶者であることが条件で、相続税の申告期間内である10か月以内に控除も行う必要があります。
配偶者控除を適用すれば、ほとんどのケースで相続税がかからずに済むでしょう。
賃貸マンションは借地権や借家権といった割合が評価額に反映されるため、自己使用のマンションよりも評価額が下がり節税対策になります。
しかし、空室が長く続いている部屋は賃貸とはみなされず、借地権・借家権の割合が適用されません。
相続の直前に空室になった部屋であれば賃貸としての扱いも可能ですが、長い空室は所有者が自分で使える部屋とみなされます。
賃料が発生している部屋だけが評価額を減額する対象となるため、相続税対策を行うなら空き室を減らさなければなりません。
入居後1年間は家賃を減額するなどのサービスを行ない、空室を埋める工夫をすると良いでしょう。
マンションに限らず、相続税評価額を計算するのは膨大な知識と時間が必要です。
路線価方式などで土地の評価額を算出する方法を紹介しましたが、簡単に計算できる土地ばかりではありません。
たとえば、角地にある土地や道路に面していない土地など、複雑な計算が必要となる場合もあります。
また、土地の補正率や特例を適用させるのは、専門知識をもった法律家でないと難しい作業です。
適用可能な特例を適用せずに申告をしたり、補正率にミスがあり適用不可とされてしまったり、減額に失敗するケースもあるでしょう。
そのため、専門知識をもたずに評価額の算出をするのはおすすめできません。
相続税で損をするのを避けるためにも専門家に依頼するのが賢明です。
ここまで、マンションを相続する際の相続税評価額の調べ方について解説しました。
相続税評価額は概算であれば自分でも計算は可能ですが、正確な評価額を算出するのは複雑で困難なことです。
しかし、正確な相続税評価額は相続税の申告に欠かせないものです。
申告時に評価額が正しく算出できていないと後から追税を取られたり、余分な相続税を納めてしまったりする事態になりかねません。
相続税を余分に取られないためにも、知識をもった専門家に依頼をしましょう。
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