相続不動産の相談は誰にすべき?生前整理から売却まで徹底解説

相続

相続財産の中でも不動産は価値が大きく、現金のように均等に分けることが難しいため、相続人間のトラブルにつながりやすい資産です。

生前の整理から相続発生後の名義変更(相続登記)や遺産分割協議、さらには不動産の売却・活用に至る各段階で、適切な専門家へ相談しながら進めることがスムーズな相続の実現に欠かせません。

本記事では不動産相続に関する具体的な相談先や手続きの流れを整理し、トラブルを防ぐためのポイントを解説します。

不動産相続の相談先

不動産の相続手続きには法律や税金など複雑な知識が絡むため、内容に応じて次のように適切な専門家に相談することが重要です。

  • 司法書士
  • 弁護士
  • 税理士
  • 不動産会社

それぞれの専門家には得意分野があるため、誰に何を相談すべきかを把握しておくことで相続手続きを効率よく進められます。

以下に主要な相談先とその役割を紹介します。

司法書士

司法書士は相続登記(不動産の名義変更)手続きの専門家であり、被相続人から相続人への不動産名義変更を代理して行います。

相続登記では戸籍謄本や住民票など多数の書類収集や法務局への申請が必要ですが、自分で手続きを行うことも可能です。

ただし専門知識が要求されるため、一般的には司法書士に依頼するケースが多いです。

司法書士に依頼すれば、戸籍収集や登記申請書類の作成から申請手続きまで任せられるため、正確かつ迅速に名義変更を完了できます。

弁護士

弁護士は、不動産を巡る相続人同士の話し合いがまとまらない場合やトラブルが発生している場合に頼りになる存在です。

相続人間の感情的なしこりで協議が進まないようなケースでは、弁護士を代理人として間に入れて交渉してもらう選択肢があります。

専門家が調整することで意外とあっさり合意に至ることも少なくありません。

また、話し合いがまとまらず家庭裁判所での調停・訴訟に発展した場合、代理人になれるのは弁護士だけです。

費用はかかりますが、法的な争いが見込まれる場合は早めに弁護士へ相談し、対応を任せる方がスムーズに解決へ進むでしょう。

税理士

税理士は、相続税や不動産売却時の譲渡所得税など税金面でのサポートを担う専門家です。

相続した不動産に関する税務申告では、不動産評価額の算出方法一つで申告額が過不足となり、余計な手間や税負担増加の原因になりえます。

税理士に依頼することで、最新の税制や評価基準に基づいた正確な相続税申告が可能となり、必要書類の収集・作成も代行してもらえるため大幅に手間を削減できます。

さらに、不動産相続では適用できる特例や節税制度によって税額が大きく変わる場合があります。

要件が複雑なこれら特例の適用可否についても専門知識を持つ税理士なら的確に判断でき、各相続人の状況に合わせた節税アドバイスやシミュレーションを受けられます。

経済的な負担を軽減したい場合には、税理士へ相談しておくと安心です。

不動産会社

不動産会社は、相続した不動産を売却したい場合や賃貸として活用したい場合に重要なパートナーとなります。

不動産の市場価値を把握するため、まず不動産会社へ査定を依頼するのが出発点です。

売却を進めるには相続人全員の同意が必要となるため、全員で合意した上で査定結果を参考に売却方針を決定します。

また、不動産会社は物件の買主探しや売却活動の代行、さらには「売らずに活用する」プランの提案も行ってくれます。

たとえば、土地活用に慣れた不動産会社であれば、その土地に合った活用方法(駐車場経営や賃貸アパート建築等)の提案も可能です。

不動産会社に相談すれば、売却・賃貸いずれの場合でも査定から契約締結まで幅広くサポートしてくれるため、相続人自身が不動産取引に不慣れでも安心して進められるでしょう。

相続発生前の不動産について相談しておくべきこと

相続が発生する前に不動産について以下の項目を整理しておくことで、将来的な相続トラブルを回避できます。

  • 不動産の現状がどうなっているかについて
  • 遺言書の中の不動産に関する記載について
  • 生前贈与や名義変更について

親世代が健在なうちから財産の現状把握や遺言書の作成、生前贈与の検討などを進めておけば、相続発生後の手続きがスムーズになり、相続人間の争いを防ぐ効果が期待できます。

以下からは、生前に相談・検討しておきたい主なポイントを解説します。

不動産の現状がどうなっているかについて

まず、生前にやっておきたいのは、所有している土地・建物がどこにどれだけあり、評価額がどの程度か、といった不動産資産の現状把握です。

不動産の利用状況や市場価値をあらかじめ把握しておくことは、相続人間で公平に財産を分けるための基礎となります。

また、相続税申告や遺産分割の場面でも不動産評価額は重要な指標です。

不動産の評価額には、相続税評価の基準となる路線価、固定資産税評価額、不動産市場における実勢価格など複数の算定方法があります。

それぞれ数値が異なるため、どの評価額を基準にするかによって相続税額や分割の公平性が変わりえます。

事前に評価方法を理解し、必要に応じて不動産鑑定士や税理士に相談して正確な評価額を把握しておくと良いでしょう。

不動産評価額の算定方法

不動産評価額の算定方法は主に次の3つです。

評価方法 内容 主な利用目的
路線価評価 国税庁が公表する路線価に基づき、土地の相続税評価額を計算する方法 相続税の算出基準
固定資産税評価 市区町村から毎年送付される固定資産税評価額を基にする方法 登録免許税の算定など
実勢価格(時価) 実際の不動産取引市場で成立する可能性がある価格 売却や遺産分割の目安

各評価方法で金額に差が出る場合も多いため、相続目的に応じて最適な評価額を採用することが大切です。

遺言書の中の不動産に関する記載について

被相続人が遺言書を作成し、そこに不動産を「誰に相続させるか」指定しておくことは、相続発生後の争いを減らす有力な手段です。

遺言書で不動産の相続先を明確に指定しておけば、原則として遺産分割協議を経ずに相続手続きを進められるため、共有状態の発生や相続人間の争いを避けやすくなります。

特に不動産は分割が難しく争点になりやすいため、遺言で帰属を決めておく意義は大きいでしょう。

ただし、法定相続人全員が合意すれば遺言によらず遺産分割協議を行うことも可能な点には留意が必要です。

なお、遺言書を作成する際は公正証書遺言にしておくと安心です。

自筆証書遺言は形式不備で無効になるリスクが高いのに対し、公正証書遺言であれば公証人と証人が内容を確認した上で作成するため、遺言が無効となるリスクを大幅に減らせます。

また、遺言内容に不備がないよう作成段階で司法書士や弁護士など専門家の助言を受ければ、遺言の有効性をより高められるでしょう。

親が遺言を用意しておくことで、残された相続人に「争続」を起こさせない備えになります。

生前贈与や名義変更について

相続発生前に、所有する不動産を特定の相続人へ生前贈与して名義変更しておく方法もあります。

生前に贈与を行えば、被相続人の死後にその不動産について相続人同士で揉めるリスクを防げるほか、相続時の財産総額を減らすことで相続税対策になるメリットが挙げられます。

また、親が元気なうちに財産を整理・処分でき、煩雑な遺産分割の手間を省ける点もメリットです。

ただし一方で、生前贈与には贈与税の負担が大きいというデメリットがあります。

贈与税は相続税より税率が高く基礎控除額も少ないため、多額の不動産を生前贈与するとかえって税負担が増える可能性が高いのです。

さらに、相続開始前7年以内の贈与は「生前贈与加算」といって相続税課税対象に組み入れられる点にも注意が必要です。

このように、生前贈与と相続のどちらが有利かは一概に言えず、各種税率や控除・特例の適用条件によって異なります。

贈与税と相続税のトータルでどちらが有利かを慎重にシミュレーションし、必ず税理士に相談の上でメリット・デメリットを比較検討することが大切です。

相続発生後の不動産について相談すべきこと

被相続人が亡くなり相続が開始すると、不動産についてまず考えるべきは次の通りです。

  • 相続放棄や限定承認すべきかについて
  • 相続登記の手続きについて
  • 遺産分割協議について

不動産は現金のように簡単に分割できる資産ではなく、そのまま放置すると相続人全員の共有名義となります。

共有状態の不動産は売却や活用に相続人全員の同意が必要で、意思が合わないと何もできなくなるリスクがあります。

また2024年の法改正により相続登記が義務化され、一定期間内に登記しないと過料の可能性も生じました。

以下から、それぞれ詳しく見ていきましょう。

相続放棄や限定承認すべきかについて

相続した不動産に大きな負債(担保ローン等)が残っていたり、管理困難な物件である場合、相続放棄や限定承認といった選択肢を検討する必要があります。

たとえば相続財産より負債の方が多い場合、プラスもマイナスも全て放棄する「相続放棄」を選ぶことで負債の引き継ぎを免れることができます。

ただし相続放棄をすると不動産だけでなく他の預貯金など全財産を放棄することになるため、他に価値ある資産がある場合は慎重な判断が必要です。

相続放棄は相続があったことを知ってから3か月以内(熟慮期間)に家庭裁判所へ申述しなければなりません。

一方、「限定承認」はプラスの財産の範囲内で負債を支払うことを条件に、残った財産があれば相続できる制度です。

負債総額が不明な場合でも、限定承認を選べば相続人は自分が得た財産の範囲内でしか負債を負わないため、想定外の借金を背負うリスクを抑えられます。

限定承認も相続開始を知ってから3か月以内に家庭裁判所で手続きを行う必要があります。

相続放棄・限定承認はいずれも期限が短く手続きも煩雑なので、必要があれば早急に弁護士などに相談し適切な対応をとりましょう。

相続登記の手続きについて

不動産の相続登記(名義変更)は、2024年の法改正により義務化されています。

 令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。

相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。

遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。

引用元:東京法務局「相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始)~なくそう 所有者不明土地 !~

2024年4月1日以降に相続が発生した不動産については、相続開始を知った日から3年以内に相続登記を完了しなければなりません。

相続登記とは前所有者(被相続人)名義から新たな所有者である相続人へ名義を書き換える手続きで、戸籍謄本や住民票、遺産分割協議書など必要書類を揃えて法務局に申請します。

従来は相続登記が義務ではなかったため未了のまま放置されたケースもありましたが、今後は期限内の申請が求められる点に注意が必要です。

相続登記は自分で行うことも可能です。

しかし申請書の記載や添付書類の要件など専門知識が必要なため、実務上は司法書士に依頼するのが一般的。

時間も手間も想像以上にかかる手続きなので、早めに準備に取りかかりましょう。

遺産分割協議について

相続人が複数いる場合、不動産を誰がどのように取得するか全員で話し合う遺産分割協議が必要です。

遺言で不動産の承継者が指定されていない限り、相続人全員で協議して分割方法を決め、その合意内容を書面にした「遺産分割協議書」を作成することで不動産の単独名義化など次の手続きに進めます。

不動産の分け方には主に次のような方法があります。

分け方 内容 メリット デメリット
現物分割 不動産を物理的に分筆・分割して各相続人が取得する方法 相続人が直接不動産を取得できる 均等に分けるのが困難で、価値が下がる恐れがある
代償分割 ある相続人が不動産を単独取得し、その人が他の相続人に代償金を支払う方法 不動産を手放さずに公平を保てる 代償金を用意する必要がある
換価分割 不動産を売却し、その売却代金を相続人間で分配する方法 現金に換えるため分けやすく、公平性が高い。相続税の納税資金にも充てやすい 市場の状況によって売却額が変動するリスクがある

以上の分割方法をどれにするか、相続人全員の合意が不可欠です。

遺産分割協議には相続人全員が参加し、全員の同意をもって初めて成立します。

一人でも反対する相続人がいれば協議はまとまらず、不動産の単独処分ができません。

このため話合いが難航する場合には、司法書士や弁護士など専門家のサポートを受けて協議内容の調整や提案をしてもらうことも有効です。

専門家を交えることで見落としがちなポイントへの助言が得られ、トラブル防止につながります。

共有名義不動産のリスクに注意!

遺産分割協議で結論が出ないまま時間が経過すると、不動産は相続人全員の共有名義となった状態で取り残されてしまいます。

共有名義の不動産は後々トラブルにつながりやすい点に注意が必要です。

たとえば、不動産を売却したり賃貸に出したりするには共有者である相続人全員の同意が必要で、一人でも反対すれば自分の意志だけで勝手に処分を進めることはできません。

自分の持分だけ第三者に売却する方法もありますが、そのような一部分の権利のみ購入してくれる相手を見つけるのは困難です。

さらに共有のまま次の世代(共有者の相続)が始まると、所有者の人数が増えて権利関係が複雑化し、事態は一層厄介になります。

このように共有名義にはデメリットが多いため、早めに遺産分割協議をまとめて単独名義化するか、後述する換価分割(売却現金化)で整理するのが望ましいでしょう。

不動産の売却・活用方法について

遺産分割協議の結果、不動産を売却して現金化することになった場合や、次のように相続人がその不動産を 活用(賃貸等)するケースも考えられます。

  • 自分や家族が居住する
  • 賃貸として活用する
  • 売却して現金化(換価分割)する

どちらを選ぶかは、各相続人の生活状況や不動産の収支バランス、税負担など総合的に判断する必要があります。

以下からは、それぞれのポイントを解説します。

自分や家族が居住する

相続した不動産を自分や家族の住居として利用することは、一つの有効な選択肢です。

もともと実家に同居していた相続人であればそのまま住み続けるケースが多く、遠方に住んでいた人でも相続を機に移り住むことがあります。

居住用にするメリットは、まず住宅費を削減できる点です。

新たに家を購入・賃借する費用が不要になり、生活コストを抑えられます。

また、被相続人が住んでいた宅地を相続人が引き続き居住用に利用する場合、小規模宅地等の特例が適用できるケースがあります。

この特例に該当すれば、たとえば亡くなった親が住んでいた土地(特定居住用宅地等)について相続税評価額が最大80%減額される措置が受けられます。

他にも、居住して一定要件を満たすと住宅ローン控除など税制優遇が受けられる場合もあります。

ただし注意点として、古い家屋を引き継ぐ場合は修繕費や維持費がかかることです。

築年数次第ではリフォーム費用が嵩むケースもありますし、固定資産税や日々の光熱費等も自己負担となります。

立地・建物の状態によっては建替えを検討した方が良い場合もあります。

総合的に判断して、居住するメリットが大きいかどうか検討しましょう。

賃貸として活用する

自分で利用しない不動産は、賃貸に出して収益を得る方法もあります。

賃貸運用すれば毎月の家賃収入が入るため、固定資産税や維持管理費を賄える可能性があります。

特に、将来的に売却する予定がない場合でも不動産を遊ばせておくのはもったいないため、一時的にでも貸し出してお金を生む資産に変える意義は大きいでしょう。

ただし賃貸経営には空室リスクや管理の手間が伴います。

相続した実家が比較的新築で綺麗な状態ならそのまま貸し出せますが、多くの場合リフォームが必要になります。

たとえば賃貸用に数百万円規模のリフォーム代がかかった場合、家賃収入でそれを回収するには相当の年数が必要です(リフォーム300万円・家賃5万円なら回収に最低5年)。

また、物件の立地や間取りによって家賃相場は大きく異なるため、その不動産が賃貸に向いているかどうか、不動産会社に市場性を相談するのがおすすめです。

さらに賃貸中は定期的な建物メンテナンス対応や、入居者との契約・トラブル対応なども発生します。

こうした管理業務は不動産会社の賃貸管理サービスに委託することも可能なので、必要に応じて検討してください。

総じて、賃貸活用は収益を得つつ資産を保持できる点が魅力ですが、手間とリスクも考慮して判断しましょう。

売却して現金化(換価分割)する

不動産を売却して現金化し、相続人で分配する方法は、相続人間の公平性があり、トラブルを防ぎやすい選択肢です。

複数の相続人で不動産を共有して持ち続けると前述のように意思調整が難しくなるため、思い切って売却してしまえば各自が納得できる額の現金を取得でき、後腐れが少なくなります。

不動産の換価分割は、特に相続人同士に遺産分割の対立がある場合や、他に分ける現預金が少なく代償金の工面が難しい場合に有効です。

もっとも、売却を選択する際にはいくつか注意点もあります。

一つは、売却によって相続税の納税資金を確保する必要があるケースです。

相続税は原則として相続開始後10か月以内に現金で納付しなければなりませんが、不動産しか財産がない場合、売却で現金化しないと納税が難しいことがあります。

幸い相続税の申告期限までに売却がまとまれば、取得費加算の特例(相続税額を譲渡所得計算上、取得費に加算できる制度)によって譲渡益の課税を幾分抑えることも可能です。

もう一点は、売却に伴う譲渡所得税への対策です。

後述するように、不動産売却益には約20%(長期譲渡の場合)の所得税・住民税が課税されますが、適用できる特例を使えば税負担を大きく減らせる場合があります。

これら税金面も考慮しつつ、相続人全員が合意できるなら売却による現金化は有力な整理方法。

なお、売却するか賃貸するか判断に迷う場合、各相続人の今後の生活設計や不動産の収支シミュレーション、将来の不動産価値見通しなどを総合的に比較検討することが大切です。

必要に応じて不動産会社や税理士にシミュレーションを依頼し、ベストな活用策を見つけましょう。

以下からは、不動産を売却する場合の具体的な手順や留意したいポイントについて説明します。

売却のために必要な前提手続き

相続した不動産を売却するには、相続人全員の合意と相続登記の完了という2つの前提手続きが不可欠です。

まず相続人が複数いる場合、誰か一人の判断で勝手に売却することはできません。

土地や建物は遺産分割が終わるまでは相続人全員の共有財産と見なされるため、一部の共有者でも反対すれば不動産全体を処分することは法律上できないのです。

従って売却を進めるには、「その不動産を誰が相続するか」もしくは「売却して現金を全員で分ける」という方針を相続人全員で協議し、合意しておく必要があります。

この合意内容を明確にするため、通常は遺産分割協議書に「当該不動産は売却し、代金を●●と●●で●対●の割合で分配する」等と取り決めを記載します。

次に、売却に先立ち不動産の名義を相続人に変更しておく必要があります(相続登記が未了だと買主への所有権移転登記ができません)。

相続人代表の単独名義にする場合も、一度相続人全員で法定持分の共有登記を経てからでないと売却できないため、いずれにせよ相続登記を完了させておくことが求められます。

相続登記は前述のように司法書士に依頼するのが一般的で、売却する前提として早めに手配しておきましょう。

以上の合意形成と登記完了という前提条件を満たして初めて、市場での売却活動に移ることができます。

なお、意見がまとまらない相続人がいる場合は、家庭裁判所での調停・審判により売却実施を図る(遺産分割調停や共有物分割訴訟を提起する)方法もあります。

しかし裁判になると時間も費用もかかるため、専門家の仲介のもとできる限り話し合いで全員合意を目指すのが現実的です。

相続不動産売却の流れ

相続した不動産を売却する際の一般的な流れは、査定依頼→相続登記→売買契約→決済・引渡し、となります。

それぞれの段階で必要な対応とポイントを見てみましょう。

1.不動産会社へ査定依頼(相続人全員の同意が必要)

まずは不動産の市場価値を把握するため、不動産会社に売却査定を依頼します。

誰も住む予定がない物件であれば売却も一つの方法ですが、売却には相続人全員の同意が前提となるため、査定依頼前に一度相続人間で売却方針について概ね合意しておくことが望ましいです。

査定は複数社に依頼するとより客観的な価格帯が分かります。

不動産会社から提示された査定額を参考に、売却するかどうか最終判断しましょう。

なお査定の段階では相続登記が済んでいなくても進められますが、正式に売却を進める際には次のステップで述べる登記完了が必要です。

2.相続登記の完了(司法書士に依頼するケースが多い)

売却を決めたら、相続登記を完了させます。

被相続人名義のままでは不動産を売却できないため、売主である相続人名義への変更登記が必須です。

既に遺産分割協議で特定の相続人が不動産を取得することになっている場合は、その人の単独名義に登記し直します。

協議中で法定相続分どおり共有名義になっている場合でも、一旦共有名義のまま全員が売主となって売却し、決済時に各自の持分割合で代金を受領する形をとることが可能です。

いずれにせよ登記申請には専門知識が要るため、通常は司法書士に依頼します。

司法書士がいれば必要書類の準備から法務局への申請まで代行してもらえるため、相続人は印鑑証明書の取得や書類への押印等、最低限の対応で済みます。

速やかに相続登記を済ませ、買主に提示できる権利関係を整えておきましょう。

3.不動産売買契約の締結

買主が見つかったら、売買条件の最終交渉を経て不動産売買契約を締結します。

契約の売主当事者は原則として相続登記された名義人となりますが、相続人が複数で共有名義の場合は相続人全員が売主として契約書に署名押印します。

一人でも不同意の相続人がいれば契約は成立せず、一部の相続人だけで勝手に売却契約を結ぶことはできません。

契約書には物件概要や代金額、手付金、引渡日、契約不適合責任の範囲、違約時の対応など法的拘束力を持つ事項が盛り込まれます。

後日の紛争防止のため、相続人全員で内容を十分に確認し、理解・納得した上で署名押印しましょう。

また売買契約の場には仲介の不動産会社担当者が立ち会い、重要事項説明を買主に実施します。

相続人側も不明点は遠慮なく質問し、必要に応じて税理士や弁護士にも確認した上で契約してください。

4.決済・引渡し(相続人で代金を分配)

売買契約締結後、通常1~2か月程度で決済・物件引渡しの日を迎えます。

決済当日は買主から残代金を受け取り、同時に司法書士による所有権移転登記の申請手続きが行われます。

相続不動産の場合、売却代金は事前の協議や契約書の定めに従い相続人間で分配します。

たとえば法定相続分に応じて均等に分ける、特定の相続人が多めに取得する代わりに他の人の相続税を負担する、といった取り決めが考えられます。

分配割合について明確な合意がないとトラブルになりかねないため、遺産分割協議書等でしっかり決めておきましょう。

決済後は買主へ物件の鍵を引き渡し、売却完了となります。

受け取った代金は各相続人がそれぞれの相続分として取得しますが、多額の現金を得た場合には譲渡所得税の納税資金として一定額を確保しておく必要がある点にも注意してください。

売却にかかる税金と特例制度

不動産を売却して利益(譲渡益)が出た場合、原則として譲渡所得税(所得税+住民税)がかかります。

相続により取得した不動産を売却した場合でも例外ではなく、取得費や譲渡経費を差し引いた譲渡所得に対して税率(所有期間が5年超なら20.315%、5年以内なら39.63%※復興税含む)が適用されます。

ただし、譲渡益が発生する場合でも適用できる特例制度があれば税負担を大幅に軽減できる可能性があります。

代表的なものに「相続空き家特例」と「居住用財産の3,000万円特別控除」の2つがあります。

特例制度 内容 主な要件 控除額 留意点
相続空き家特例 相続または遺贈で取得した家屋を売却した際に適用できる特別控除 ・被相続人が一人暮らしだったこと
・昭和56年5月31日以前に建築
・区分所有建物でないこと など
譲渡所得から最大3,000万円控除 ・適用期限あり
・多くのケースで譲渡所得税をゼロにできる強力な減税措置
居住用財産の3,000万円特別控除 自分が住んでいたマイホームを売却した際に適用できる特別控除 ・本人が居住していた住宅
・相続で取得した住宅を一定期間自分が居住用として利用した後に売却する場合も可
譲渡所得から最大3,000万円控除 ・相続以外でも利用可能
・適用要件は細かく確認が必要

特例の適用には細かな条件や必要書類があります。

したがって実際に売却する際は、税理士に相談して自分が該当するか確認してください。

適用可能であれば数百万円規模の税金が軽減されることも珍しくありません。

なお、相続開始から3年以内に売却した場合には前述の「取得費加算の特例」が使えて相続税相当額を取得費にプラスできるといった制度もあります。

不動産売却時にはこうした優遇策を最大限活用し、余計な税負担を減らせるよう準備しましょう。

相続した不動産を空き家として放置するとリスクが伴うので注意!

相続したものの使い道が決まらず空き家のまま放置している不動産には、さまざまなリスクが伴います。

まず、建物は人が住まなくなると急速に傷みやすく、定期的な換気や清掃、害虫対策など管理を怠ると周囲に悪影響を及ぼす恐れがあります。

実際、倒壊の危険や景観の悪化など周辺に害を及ぼす恐れのある放置住宅は自治体から「特定空家」に指定されることがあります。

特定空家に指定されると、たとえ建物が建っていても住宅用地の特例が外され、固定資産税が更地同様に最大で従来の6倍にまで跳ね上がるケースがあります。

税負担が増すだけでなく、行政から改善の指導・勧告を受けても放置を続けると最終的には強制的に撤去される可能性すらあります。

また、空き家の放置は火災や不法侵入など治安・防災面のリスクも高めます。

こうした事態を避けるため、相続後に使う予定がない不動産はできるだけ早期に売却や賃貸活用など次の手を打つことが肝心です。

自治体によっては空き家バンクでの登録支援や、解体・リフォーム費用の補助制度を設けている場合もあります。

したがって、活用しない空き家を抱えている方は行政や専門業者に相談して適切な対処を検討してください。

不動産相続をスムーズに進めるには、早期相談と専門家の力が不可欠

以上見てきたように、不動産の相続手続きを円滑に進めるには各分野の専門知識が必要であり、相続人だけで全てを完結させるのは容易ではありません。

相続登記、遺産分割協議、売却手続き、税金対策それぞれの段階で司法書士・弁護士・税理士・不動産会社など専門家の力を借りることで、手続きの漏れやミスを防ぎスピーディーに進めることができます。

相続の状況によっては複雑で自身では手に負えないこともあるでしょう。

そこで、トラブルのない円満な相続を実現するためには早い段階で相談を開始することが大切です。

生前のうちからでも遠慮なく専門家に相談し、相続発生後も適宜プロのサポートを得ながら進めることで、不動産相続は格段にスムーズになります。

なお、私たち静岡鉄道グループの「静鉄不動産と専門士業の相続サポートセンター」のように、不動産会社と司法書士・税理士・弁護士とが連携してワンストップで相続相談に対応してくれる窓口もあります。

静鉄不動産と専門士業の相続サポートセンターでは、不動産の相続から活用・売却に伴う手続きを各分野のプロフェッショナルと協力して安心・確実にサポートしており、初回の相談は無料となっています。

相続に関する不安や疑問をお持ちの方は、ぜひ早めに専門家へ相談してみてください。

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記事監修者
司法書士 川上直也

当センターの受付を担当しております。

司法書士になる前は、特別養護老人ホームで約10年間介護職に従事しておりました。そこで法律に悩む高齢者の声に触れ、「気軽に相談できる法律の専門家の必要性」を感じ、司法書士を志しました。

ご相談には丁寧に耳を傾け、安心して話せる環境づくりを大切にしています。相続などでお困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。

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