相続手続きの流れを時系列で解説!死亡後から申告・登記まで、期限を逃さないために

相続

親族が亡くなって相続が発生すると、悲しみの中でもすぐに進めなければならない手続きが数多くあります。

葬儀の準備と並行して、役所への届出、年金や保険の停止、預貯金や不動産の名義変更など、やるべきことはさまざまです。

それぞれの手続きには期限があり、順番を誤ると後の手続きが滞ることもあります。

本記事では、死亡直後から各種申告・不動産の相続登記完了まで、時系列に沿って必要な手続きと期限を解説します。

相続手続きの全体の流れと期限一覧

相続発生から完了までの主な手続きと期限を、次の一覧表で整理しましょう。

手続き内容 期限の目安 期限の区分(法定/実務) 主な根拠法令・制度
死亡届の提出(死亡診断書の取得・火葬許可申請) 7日以内(死亡の事実を知った日から) 法定 戸籍法第86条・第89条、墓地埋葬法第5条等
年金受給停止の届出(国民年金・厚生年金) 10日以内(厚生年金)、14日以内(国民年金) 法定 国民年金法第105条、厚生年金保険法第37条等
健康保険証・介護保険証の返却(資格喪失届) 14日以内 法定 国民健康保険法第9条、介護保険法第13条等
世帯主変更届の提出 14日以内 法定 住民基本台帳法第25条
遺言書の確認・検認手続き (なるべく早く・遅滞なく) 法定 民法第1004条、第1005条、家事事件手続法
相続放棄・限定承認の申述(家庭裁判所) 3か月以内 法定 民法第915条
(※相続放棄・承認期間伸長の申立て) (3か月以内に申立て) 法定 民法第915条但書
被相続人の所得税の準確定申告 4か月以内 法定 所得税法第125条
相続税の申告・納付 10か月以内 法定 相続税法第27条
遺留分侵害額請求(必要な場合) 1年以内(権利行使期限)
※10年以内(除斥期間)
法定 民法第1048条(減殺請求権の期間)
健康保険の給付請求(高額療養費、埋葬料 等) 2年以内 法定 健康保険法第193条(時効)等
国民年金の死亡一時金請求(該当者のみ) 2年以内 法定 国民年金法第120条(時効等)
不動産の相続登記(名義変更登記) 3年以内 法定 不動産登記法第76条の2等(2024年改正)
生命保険金の受取手続き 3年以内 実務 保険法第56条(保険金請求権の時効)等
その他の名義変更手続き(預金・車両等) 特に期限なし(速やかに) 実務 ― (各機関の内部手続き)

表中の「実務」は法律上明文の期限はないものの、一般的に早めの対応が推奨されるものです。

死亡後7日以内に必要な手続き

相続開始直後(被相続人の死亡後すぐ)7日以内に行うべき緊急な手続きは、次の「死亡届提出」です。

死亡届の提出(死亡診断書の取得・火葬許可申請)

被相続人が亡くなった事実を戸籍に反映させ、公的に死亡を証明するための手続きです。

医師から交付された死亡診断書(または死体検案書)に必要事項を記入した上で、被相続人の本籍地・死亡地・または届出人の所在地の市区町村役場に死亡届を提出します。

死亡届を提出すると同時に火葬許可証の発行申請も行われ、火葬や埋葬の許可を受けます。

通常は、亡くなった方の住所地の市役所・町村役場の戸籍担当窓口で行います。

必要書類は以下の通りです。

  • 医師の死亡診断書と一体になっている死亡届用紙
  • 死亡診断書(死体検案書)原本
  • 届出人の認印(火葬許可申請時に必要)

死亡届用紙は、病院で死亡診断書と一緒に渡されるのが一般的です。

また、届出の際には火葬の日程等も確認されます。

提出期限は死亡の事実を知った日から7日以内です(国外での死亡の場合はその事実を知った日から3ヶ月以内)。

この7日間には死亡した当日も含まれます。

たとえば死亡当日が1日なら、7日後の7日までが届出期限です。

役場の休日にあたる場合は翌開庁日まで延長されます。

期限内に届出をしないと、届出義務者(同居の親族など)に対し過料(科料ではなく行政罰)が科される可能性があります。

法律に基づき、市町村長は期限を過ぎた死亡届を管轄の簡易裁判所に通知する義務があり、裁判所の判断で5万円以下の過料が科される場合があります。

第86条

第八十六条 死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内(国外で死亡があつたときは、その事実を知つた日から三箇月以内)に、これをしなければならない。

引用元:戸籍法 | 第86条

実際に罰則が適用されるケースは多くありませんが、届出が遅れると火葬許可が下りず葬儀に支障が出たり、各種相続手続き全体が遅れたりするなどの不利益があります。

したがって期限厳守が重要です。

死亡届提出後、役所で火葬許可証が交付されます。

火葬や埋葬を行う際には役所で交付された許可証が必要となります。

なお、死亡届は葬儀社が代行提出する場合もありますが、届出義務者の署名押印が必要です。

提出した死亡届の写し(受理証明)や死亡診断書のコピーは、この後の年金停止手続きや保険金請求などで必要になることがあるため、提出前に複数コピーを取っておきましょう。

死亡後14日以内に必要な手続き

次に、死亡後できるだけ早く(おおむね2週間以内に)行うべき手続きを説明します。

  • 年金受給停止の手続き(年金受給者死亡届の提出)
  • 健康保険・介護保険の資格喪失届(保険証の返却等)
  • 世帯主の変更届

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

年金受給停止の手続き(年金受給者死亡届の提出)

被相続人が公的年金(国民年金や厚生年金など)を受給していた場合、年金の支給停止手続きを行います。

年金は受給者が亡くなると以後の支給を受ける権利が消滅するため、すみやかに年金機構へ死亡の届出を行い、年金支給を止めなければなりません。

年金の支給停止手続きをしないままでいると、死亡後も年金が振り込まれてしまい、後日過払い分を返還しなければならなくなるおそれがあります。

提出先は日本年金機構(年金事務所)または厚生年金の場合は勤務先経由です。

具体的には、厚生年金受給者の場合は死亡日から10日以内に所轄の年金事務所へ、国民年金(老齢基礎年金)受給者の場合は死亡日から14日以内に市区町村役場または年金事務所へ届け出ます。

年金機構では「年金受給者が亡くなったら速やかに届出を」としており、特に法定で明確に日数が規定されているわけではないものの、年金事務所等への案内では上記の日数が目安とされています(国民年金法施行規則で14日以内の届出が求められる旨の規定があります)。

実務上も遅くとも2週間以内には手続きを済ませるのが望ましいです。

なお、亡くなった方の基礎年金番号とマイナンバーが年金機構に登録されている場合、死亡届を市区町村に出すことで年金機構にも連携されるため、別途の死亡届提出が省略される場合があります。

しかし未登録の場合や迅速に停止確認したい場合は、自ら年金事務所に届け出たほうが確実です。

提出には年金証書(年金手帳)と、死亡を証明する書類(死亡届受理証明書や除籍謄本など)を用意しましょう。

届出様式は「年金受給権者死亡届(未支給年金・未支払給付金請求書)」で、日本年金機構のサイトからダウンロード可能です。

用に記入し、年金証書(年金証書番号の記載されたハガキ状のもの)を添えて提出。

厚生年金の場合は勤務先が手続きを行ってくれるケースもありますが、遺族が直接年金事務所に届け出ても構いません。

届出が遅れると本来受け取るべきでない年金が振り込まれてしまい、後日返金手続きが必要になる可能性があります。

たとえば偶数月15日の年金支給日より前に亡くなったのに、届出が遅れて支給停止が間に合わないと、死亡後の支給分を全額返納しなければなりません。

また、届出が遅れると未支給年金(亡くなった月までの受給権があった年金)を受け取るための手続きも遅延します。

未支給年金の請求は死亡届と同じ用紙で行うため、届出が遅れると支給処理も遅れてしまいます。

したがって、できるだけ早く手続きを行いましょう。

年金受給者が亡くなった月分までで、まだ支払われていない年金(偶数月支給の場合、死亡月までの未支給分)がある場合、配偶者など一定の遺族が未支給年金を請求できます。

未支給年金の請求期限は特に法定の期限はありませんが、早めに手続きすることで確実に受け取れます。

必要書類は年金証書、亡くなった方と請求者の戸籍関係書類(生計同一関係申立書が必要な場合あり)など多岐にわたるため、年金事務所で確認しながら進めましょう。

健康保険・介護保険の資格喪失届(保険証の返却等)

被相続人が国民健康保険に加入している、または後期高齢者医療保険や健康保険組合等の被保険者であった場合、保険資格が死亡日に失われるため、保険証の返却と資格喪失届の提出が必要です。

保険証は死亡日以降無効となるため、市区町村役場または保険者へ返還します。

亡くなった方が国民健康保険の加入者および後期高齢者医療保険の場合は市区町村役場の国民健康保険担当窓口に届け出ます。

会社員等で健康保険組合や協会けんぽの被保険者だった場合は、通常勤務先経由で健康保険証を会社に返却し、会社が保険者に資格喪失届を出します。

いずれの場合も14日以内を目安に手続きを行いましょう。

手続きには被相続人の健康保険証を使用し、窓口で死亡による資格喪失届を提出します。

死亡が確認できる書類(死亡届の写し・除票など)が求められることがあり、念のため印鑑や届出人の本人確認書類を持参しておくと安心です。

会社員の健康保険は会社へ保険証を返却することで処理されます。

国民健康保険には法定で14日以内の届出が定められており、自治体も同様に案内しています。

健康保険組合の場合は明確な期限はないものの、速やかな返却が一般的です。

資格喪失届を怠った場合の直接の罰則規定はありません。

しかし亡くなった後にその保険証を利用して医療を受けることはできないため、実務上は死亡と同時に医療機関でも無効になります。

届出が遅れても遡って資格は喪失しますが、返却が遅れると保険者から催告を受けることがあります。

また、国民健康保険の場合、死亡に伴い葬祭費の支給申請が可能ですが(後述)、保険証の返却をしていないと申請手続きが進まないこともあります。

したがって、忘れずに保険証を返却しましょう。

被相続人が介護保険の被保険者(要介護認定者など)だった場合も、介護保険被保険者証の返還と資格喪失届が必要です。

こうした書類も市区町村の介護保険担当課へ、死亡から14日以内に届け出ます。

必要書類は介護保険証と亡くなった方の氏名・生年月日・死亡日が確認できるものです。

介護保険サービスの利用料については月の途中で亡くなった場合の日割り計算や、前納していた保険料の還付手続きが生じることがあります。

返却と届出をしないと介護保険料の過誤納が発生した際の返金手続きが進まないため、早めに行いましょう。

世帯主の変更届

被相続人が生前、その住民票上の世帯主であった場合、死亡により世帯主が不在になるため、新たな世帯主を届け出る必要があります。

法律により、世帯主に変更があった場合は届け出ることが義務付けられています。

たとえば家族の中で父親が世帯主だったが亡くなった場合、残された母親等を新しい世帯主として市区町村に世帯主変更届を提出します。

届出先は世帯の所在地の市区町村役場(住民異動届の窓口)です。

届出人の本人確認書類や認印を持参し、備え付けの世帯主変更届(住民異動届の一種)に新旧世帯主名や世帯員の情報を記入して窓口に提出します。

併せて亡くなった方の住民票(除票)の発行をお願いするとよいでしょう。

基本的に死亡届を出した段階で住民票に「除票」が作成されますが、世帯主変更届は別途必要です。

世帯主の変更届は、14日以内に提出することが法令で定められています。

第25条(世帯変更届)

第二十五条 第二十二条第一項及び第二十三条の場合を除くほか、その属する世帯又はその世帯主に変更があつた者(政令で定める者を除く。)は、その変更があつた日から十四日以内に、その氏名、変更があつた事項及び変更があつた年月日を市町村長に届け出なければならない。

引用元:住民基本台帳法 | 第25条

死亡に伴う世帯主変更も該当します。

届出を怠ったり虚偽の届出をした場合、住民基本台帳法に基づき5万円以下の過料の対象となりえます。

ただし実際に過料が科されるのは極端な不履行・虚偽申告の場合です。

とはいえ、世帯主が空位のままだと住民票上不整合が生じるため、公的手続き(たとえば世帯主に支給される給付金の受領など)に支障が出る可能性があります。

また、死亡に伴う国民健康保険や介護保険の手続きを行う際にも世帯主情報が必要になることがあります。

世帯主変更届自体に直接の経済的利益はありませんが、公的記録を正しく保つために速やかに行いましょう。

なお、世帯全員が亡くなった場合や一人世帯でその人が亡くなった場合は世帯そのものが消滅するため、世帯主変更届は不要です(住民票が除票されるのみです)。

死亡後〜3か月以内に必要な手続き

ここからは、相続開始後おおむね3ヶ月以内に行うべき以下の重要な手続きについて解説します。

  • 遺言書の確認・検認手続き
  • 相続人の調査・確定
  • 相続財産の調査・財産目録の作成
  • 相続放棄・限定承認の申述

特に3ヶ月目は法律上重要な節目となります。

以下から、それぞれ詳しく見ていきましょう。

遺言書の確認・検認手続き

被相続人が遺言書を残していた場合、相続手続きは基本的に遺言の内容に従って進めます。

そのため、まず遺言書の有無を確認することが重要です。

公正証書遺言の場合は「公証役場で作成された遺言書」であり、この場合は既に公証人によって内容が確認済みなので、家庭裁判所での検認手続きは不要です。

遺言執行者が指定されていれば、その者が遺言に従い手続きを進めましょう。

自筆証書遺言は、紙に自書された遺言書を指します。

2020年7月以降、法務局の遺言書保管制度を利用している場合は検認不要です。

一方、自宅などで保管され封印された状態で見つかったものは勝手に開封できず、家庭裁判所で相続人立会いのもと開封する必要があります。

第1005条(過料)

第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。

引用元:民法 | 第1005条

無断で開封すると過料の対象となるため、封印された遺言書を発見した場合は家庭裁判所へ提出して検認の申立てをしましょう。

検認とは家庭裁判所が遺言書を正式に確認・保存する手続きです。

相続人に遺言の存在と内容を知らせるとともに、遺言書の形式(日付や署名、加除訂正の状況等)を明確にして偽造・改ざんを防止するのが目的です。

遺言書を発見した相続人または遺言書の保管者が、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に遺言書を提出して検認を請求します。

この請求は遅滞なく(できるだけ早く)行う必要があります。

なお、法務局の遺言書保管制度を利用した場合は、相続人等は遺言書情報証明書を請求して入手すればよく、家庭裁判所での手続きは不要です。

検認申立てには、家庭裁判所の申立書に必要事項を記入して提出します。

必要書類は、以下の通りです。

  • 遺言書原本
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍
  • 相続人全員の戸籍など相続関係を証明する書類
  • 収入印紙(800円)
  • 郵便切手

検認期日には相続人へ通知が送られ、立会いも可能です。

封印された自筆遺言書は「遅滞なく」家庭裁判所に提出することとされており、相続放棄の判断期限(3ヶ月)にも関わるため、早期に確認することが望まれます。

封印された遺言書を無断開封すると過料の対象となりますが、開封してしまっても遺言が無効になるわけではありません。

速やかに家庭裁判所に持参し指示を受ける必要があります。

また、検認を経ていない自筆遺言書では相続登記などの手続きができません。

検認後、検認済証明書付きの遺言書を用いて正式な効力を主張できるようになります。

公正証書遺言は検認不要で、そのまま遺言執行者が手続きを進めます。

いずれの場合も、遺言書の内容が確認できた時点でその指示に従って相続手続きを進めることになります。

相続人の調査・確定

相続手続きではまず「誰が相続人か」を確定することが基本です。

被相続人の法律上の相続人を全員確定しないと、後になって漏れていた相続人から異議が出たり手続きが無効になる恐れがあります。

そのため、被相続人の出生から死亡までの戸籍を連続して取得し、結婚・離婚歴、認知や養子縁組の有無などを確認して法定相続人を確定します。

併せて、各相続人の現在の戸籍や住民票も取得し、住所や身元を確認します。

戸籍を収集して相続人を特定した後、必要に応じて法定相続情報一覧図を法務局から取得することで、不動産登記や金融機関手続きの際の書類提出が簡略化できます。

相続人調査そのものには法律上の期限はありません(早めにやるに越したことはありません)。

ただし、相続放棄等の期限(3ヶ月)や相続税申告期限(10ヶ月)までに誰が相続人か確定していないと他の手続きに支障が出ます。

特に相続放棄は各相続人ごとに判断する必要があり、相続人に漏れがあってその人が後で放棄期間を過ぎてから発覚するとトラブルになります。

実務上は死亡後〜3ヶ月以内に戸籍を集めて相続人を確定させるのが望ましいでしょう。

被相続人に前配偶者との間の子や認知した子などがいるケースでは、故人と疎遠だった相続人が存在する可能性があります。

戸籍を丹念に集めれば、そうした相続人も漏れなく判明します。

万一相続人の一人でも手続きから漏れると、遺産分割協議が無効になったり、せっかく進めた名義変更をやり直す事態にもなりかねません。

専門家によると、被相続人が若い頃に離婚していて前妻との間に子がいたケースなどで相続人漏れが発覚することがあります。

戸籍の読み取りに不安がある場合は司法書士や行政書士に相談し、相続関係説明図を作成してもらうのも一手です。

相続財産の調査・財産目録の作成

誰が相続人か確定したら、次に「どんな財産・負債が遺されているか」を把握しましょう。

特に被相続人に借金などの負債がある場合、早期の財産調査と財産目録の作成が重要です。

主な財産の調査方法は、以下の通りです。

種類 調査方法・確認ポイント
預貯金 ・通帳、キャッシュカード、ネットバンキングの記録を確認
・自宅の書類や金庫に通帳がないか確認
・証書がないか確認
・取引金融機関に残高証明書を請求
・銀行名が不明な場合は郵便物や口座振替の記録から推測
不動産 ・固定資産税の課税明細書に所在地や評価額が記載
・見当たらない場合は市区町村で固定資産評価証明書を取得
・複数自治体に所有している可能性があるため、心当たりの自治体で確認
生命保険 ・保険証券や保険会社からの郵便物を確認
・不明な場合は生命保険協会の一括照会制度を利用
・契約者貸付、解約返戻金、死亡保険金などが財産になり得る
有価証券(株式・投資信託等) ・証券会社の取引残高報告書や配当通知を確認
・ネット証券の場合はログイン情報の確認、または証券会社へ問い合わせ
借入金・債務 ・金融機関からの借入明細や郵便物を確認
・カードローンやクレジット債務の履歴を調査
・知人からの借金は借用書
・メモを探す
・保証人になっていないかも確認

調査過程で集めた資料(預金残高証明、不動産の登記簿謄本、評価証明、保険証券、借用書等)は、後の遺産分割協議や相続税申告に役立ちます。

財産目録を作成する際には、「資産」と「負債」を区別し、できれば時価評価額や残高も付記しましょう。

財産調査自体に明確な期限はありませんが、相続放棄するか否かの熟慮期間(3ヶ月)内に大まかな財産状況を把握する必要があります。

そのため、3ヶ月以内を目標に財産目録を作りましょう。

もし財産調査が3ヶ月で終わらない特殊な事情がある場合は、後述のように家庭裁判所に期間延長を申し立てることも可能です。

また、後から隠れた財産や負債が見つかるケースは少なくありません。

たとえば、見落としがちな資産として退職金(死亡退職金)や死亡保険金があります。

退職金は会社の就業規則等により支給される場合があり、受取人指定がなければ相続財産となります。

また、負債では親族や知人との私的な借入、連帯保証していた債務なども忘れず確認しましょう。

万一、相続手続き完了後に新たな財産・負債が発覚すると、遺産分割協議のやり直しや相続税の修正申告が必要になることがあります。

従ってできる限り網羅的に調査することが大切です。

相続放棄・限定承認の申述

被相続人の財産調査の結果、相続による不利益を避けたいときは、家庭裁判所で相続放棄または限定承認の手続きを検討しましょう。

相続放棄は、最初から相続人とならなかったものとみなし、一切の相続財産・債務を承継しない選択です。

たとえば巨額の借金が判明した場合に有効です。

限定承認は相続によって得た財産の限度内で債務を弁済し、超過する債務は負わないという条件付き承認です。

プラスが残る可能性もあるが債務超過か不明な場合に選択されます。

限定承認は相続人全員の共同でのみ行えます。

被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出して行います。

相続放棄も限定承認も管轄裁判所は同じです。

申述できるのは各相続人本人(未成年者の場合は法定代理人)です。

相続放棄は相続人それぞれが単独でできますが、限定承認は相続人全員で共同申述しなければなりません。

相続放棄申述書(または限定承認申述書)を家庭裁判所所定の様式で作成します。

添付書類として、以下が必要です。

  • 被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍)謄本
  • 申述人の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票(最後の住所地が分かるもの)など

申述人が複数いる場合は人数分の申述書が要ります。

手数料として収入印紙800円(相続人一人につき)と、連絡用の郵便切手(裁判所が指定する金額)を用意します。

限定承認の場合は併せて相続財産目録の提出も必要です(債権者に公告するため)。

相続開始を知ったときから3ヶ月以内に申述しなければなりません。

たとえば被相続人が亡くなった日を知った日が1月10日であれば、4月9日までに家庭裁判所へ申述書を提出する必要があります。

期限内に申述書が受理されれば手続き中でも間に合ったものと扱われます(手続き完了自体は期限後でも可ですが、期限内に申述をしないと単純承認になってしまいます)。

万一3ヶ月では判断できない事情がある場合、熟慮期間の延長を家庭裁判所に申し立てることも可能です。

相続財産調査が難航している場合など、裁判所が正当な理由ありと認めれば期間を延長してくれます。

3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄も限定承認も行わなかった場合、法律上は「単純承認」(プラスもマイナスも全て相続する)をしたものとみなされます。

一度単純承認とみなされると、原則として後から相続放棄することはできません。

その結果、多額の借金を含めすべて引き継ぐ義務を負うことになります。

ただし、期限経過後でも例外的に放棄が認められるケース(相続人不存在で相続財産管理人選任後に判明した場合等)もありますが、限定的です。

期限後に債務超過が判明しても原則覆せないため、熟慮期間内に判断することが極めて重要です。

相続放棄・限定承認そのものに罰則はありません。

申述が認められると、相続放棄の場合は家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が交付されます。

限定承認の場合は相続財産を清算する手続きに移ります。

限定承認では相続人全員で行う必要があり、手続きも煩雑(債権者への公告・弁済等)なので専門家のサポートが望ましいです。

放棄・限定承認いずれの場合も、予納金などの費用は基本不要ですが、限定承認では不動産処分等が絡むと費用がかかることがあります。

相続放棄した方は、初めから相続人でなかったものとみなされる点には注意が必要です。

たとえば長男が相続放棄すると、その子(被相続人から見て孫)が代わりに相続人になるわけではなく、最初から長男はいないものとして次順位の相続人(次男など)が繰り上がる仕組みです。

限定承認した場合、プラスの財産範囲内で債務を弁済し、残余があれば相続人が取得します。

限定承認を選択するケースは少ないですが、専門家の支援のもと適切に行えば債務超過リスクを避けつつ財産を手元に残せる可能性があります。

死亡後4か月以内に必要な手続き

死亡後4ヶ月以内に行うべき税務上の重要な手続きを説明します。

相続人が代わって申告・納税を行う必要があり、期限が比較的短いので注意が必要です。

詳しく見ていきましょう。

被相続人の所得税の準確定申告

準確定申告とは、被相続人(亡くなった人)の生前の所得について行う最終の確定申告のことです。

通常、所得税の確定申告は毎年1月1日〜12月31日までの所得を翌年2月16日〜3月15日に納税者本人が行います。

しかし年の中途で納税者が死亡した場合、死亡年の所得については相続人が代わりに税額を計算して申告・納税しなければなりません。

被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署に提出します。

相続人が複数いる場合、相続人全員の連名で1通の申告書を提出するか、各相続人が個別に提出します(いずれの場合も相続人全員の情報を記載・通知する義務があります)。

郵送提出やe-Taxも利用可能です。

所得税の確定申告書(被相続人用)を使用します。

通常の確定申告書と同じ様式ですが、「準確定申告書」である旨を付表に記載します。

被相続人の収入・経費をすべて計算し、医療費控除や保険料控除等も死亡日までに支払った分の適用が可能です。

給与所得者で年末調整済みの場合でも、医療費控除やふるさと納税等があれば準確定申告で申告できます。

必要書類としては、被相続人の源泉徴収票、各種控除証明書(生命保険料控除証明など)、医療費の領収書リストなど、通常の確定申告と同様のものが必要です。

相続人代表で還付金を受領する場合は委任状も添付します。

相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内(期限日が土日祝の場合はその翌平日)です。

たとえば1月10日に死亡した場合、5月10日が申告期限となります。

また、被相続人が前年分の確定申告を未了のまま年を越して死亡した場合、前年分と死亡年分の両方を4ヶ月以内に申告することが必要です。

計算した所得税額を申告期限までに納付します。

還付になる場合は相続人が還付金を受け取ることが可能です。

複数相続人がいる場合、一人が代表して還付金を受領できます。

その際、相続人全員の同意書(委任状)を添付することが必要です。

準確定申告を期限までに行わなかった場合、延滞税や無申告加算税などのペナルティが課される可能性があります。

延滞税は納期限からの日数に応じて利息のように増え、無申告加算税は本来納めるべき税額の5〜20%が課され得ます。

特に事業所得や不動産所得があるケースでは税額も大きくなるため、遅延による負担増に注意が必要です。

相続人が複数の場合、原則連帯して納税義務を負います。

申告・納税を怠ると各相続人に督促が来ることもあります。

準確定申告は被相続人の一年分の所得計算を行う作業で、相続手続きの他の対応と並行して行わなければなりません。

相続人にとって負担が大きい場合、税理士に依頼して準確定申告書を作成・提出してもらうことも検討してください。

法定の添付書類や控除漏れのチェックなど、専門家に任せると安心です。

死亡後10か月以内に必要な手続き

いよいよ相続開始から半年〜10ヶ月程度が経過する時期までに行う手続きを解説します。

  • 相続税の申告・納付
  • 遺産分割協議の実施と遺産分割協議書の作成
  • 遺留分侵害額請求(必要な場合)

相続税の期限(10ヶ月)は法定の厳守すべき期限なので注意しましょう。

それぞれについて、以下から詳しく解説します。

相続税の申告・納付

相続や遺贈によって取得した財産の課税価額が基礎控除額(「3000万円+600万円×法定相続人の数」)を超える場合、相続税の申告が必要です。

基礎控除を超える遺産を取得したときは、被相続人の死亡により相続が開始した時点で相続税の申告と納税の義務が生じるため、この前提を踏まえて期限内の手続きを進めましょう。

課税対象となる遺産がある場合、相続税の申告書を税務署に提出し、税額を納付しましょう。

一方、基礎控除内で相続税が発生しない場合でも、土地の特例や配偶者控除など税額軽減措置を受けるために申告が必要なケースもあります(たとえば配偶者が法定以上に相続する場合でも配偶者控除を適用するには申告が必要)。

したがって「相続税がかからないと思うから申告不要」と安易に決めつけず、一度専門家等に確認しましょう。

提出先は、被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署です。

相続人の住所地ではないので注意してください。

申告書の提出方法は、直接税務署に持参するほか、郵送提出やe-Tax(電子申告)でも可能です。

提出期限内必着である点に注意しましょう。

相続税申告書一式(第1表から第15表まで該当分)を作成し、以下の添付書類が必要です。

  • 被相続人の戸籍関係書類(被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍、改製原戸籍、相続人全員の戸籍謄本)
  • 遺言書または遺産分割協議書の写し(遺産分割がまとまっている場合)
  • 財産評価に関する書類:不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金の残高証明書、有価証券の残高報告書など
  • 債務や葬式費用の領収書(債務控除や葬儀費用控除のため)
  • 各種特例の適用証明書:小規模宅地等の特例を適用する場合は宅地の位置図や利用状況の申告書、障害者控除を受ける場合は障害者手帳の写しなど、特例ごとに決められた書類
  • 納税方法に関する書類:延納や物納を希望する場合はその申請書、担保提供関係書類
  • (必要に応じて)相続関係説明図や法定相続情報証明(提出は任意ですが添付すれば戸籍類の提出省略が認められる場合があります)

申告書は分量が多く専門的なため、国税庁の「相続税の申告の手引」や各税務署の相談窓口を活用しましょう。

相続開始(被相続人の死亡)を知った日の翌日から10ヶ月以内(期限日が土日祝の場合は翌平日が期限日)です。

10ヶ月という期限は法定の申告期限であり、一切の延長は認められていません(※災害等による申告期限延長の制度はありますが、個人的事情では延長できません)。

期限までに申告がない場合、無申告加算税(通常15%)や延滞税が課される可能性があります。

相続税の納付も申告期限(10ヶ月以内)までに行いましょう。

原則として現金一括納付です。

期限までに申告しても納税が遅れると延滞税が発生します。

納付方法は、金融機関窓口での納付、振替納税、インターネットバンキング納付、クレジットカード納付などが利用できます(クレジット納付は手数料がかかる点に注意)。

資金繰りが難しい場合、税務署へ申請して延納(分割払い)や物納(不動産等で納付)制度を利用することも可能です。

延納・物納を希望する場合は、申告書提出期限までに所定の申請書類を提出し許可を受ける必要があります。

期限までに申告しなかったり、実際より少ない額で過少申告した場合、本来の税額に加えペナルティ税が課されることがあります。

無申告加算税は本税額の10〜20%(自主的な期限後申告なら5%)です。

また、納付遅延には延滞税(年利分)がかかります。

さらに、期限内申告をしなかったことで適用できなくなる特例もあります。

特例適用を後から主張する更正の請求も、法定申告期限から5年以内にしか認められません。

したがって、必ず期限内に正確に申告・納税を行うことが肝要です。

相続税の計算は、財産評価や特例適用など専門知識を要します。

特に不動産評価額の算定や非上場株式の評価などは複雑です。

また、財産をどう分割するかで税額が変わる場合もあります(配偶者が多く取得すると非課税になる、土地を誰が取得するかで特例適用が変わる等)。

税理士に相談すれば、節税も踏まえた分割プランの提案や適切な特例適用による税額軽減が期待できます。

実際、期限ぎりぎりに駆け込んで慌てて申告書を書き間違えるより、早めに専門家に依頼し、余裕をもって正確な申告をすることが望ましいでしょう。

遺産分割協議の実施と遺産分割協議書の作成

遺産分割協議とは、複数の相続人がいる場合に、誰がどの財産を承継するか話し合って決めることです。

法律上、相続開始と同時に被相続人の財産は法定相続分に応じて相続人全員の共有状態になります。

しかし、そのままでは各財産の名義変更が難しく、また共有のままだと後々の管理処分に支障が生じます。

そこで相続人全員の合意により具体的に財産を分ける合意をするのが遺産分割協議です。

遺産分割協議自体には法律上の明確な期限はありません。

極端な話、相続開始から何十年後でも相続人全員が合意すれば協議成立し得ます。

ただし、相続税の申告までに分割内容が決まっていれば税務上有利な特例を適用でき、相続登記の義務化も進んだため、不動産については遅くとも相続開始後3年以内に名義変更しなければ過料リスクがあります。

また、民法改正(2023年)で相続開始から10年経つと遺産分割で寄与分(貢献度による取り分加算)が主張できなくなったり、家庭裁判所に持ち込んだ場合に法定相続分で分割されるおそれが出てきました。

第904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)

第九百四条の三 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

引用元:民法 | 第904条の3

こうした背景から、早めに分割協議を済ませることが推奨されます。

実務的には相続税申告期限(10ヶ月)までに協議をまとめておくのが望ましいです。

遺産分割協議ではまず遺産目録を用意し、各相続人の希望をすり合わせて分配案を決めます。

話し合いがまとまれば遺産分割協議書を作成する流れです。

協議書には相続人全員の自署と実印押印が必要で、各自の印鑑証明書を添付します。

協議書に盛り込む内容は、以下の通りです。

  • 不動産は所在地・地番や登記簿記載どおりに特定
  • 預金口座は金融機関名・店名・口座種別・番号・名義人氏名

さらに「一切の相続財産について本協議書のとおり分割する」旨を明記し、相続人全員が署名・押印します。

遺産分割協議書そのものはどこかに提出するものではありません。

しかし、遺産分割協議書は名義変更手続きの際に重要な証拠書類となります。

不動産登記では協議書(または法定相続分による場合は不要)、銀行預金の払い戻し・名義変更では協議書の提示が通常必要です。

したがって各相続人用に協議書の原本または実印証明付きコピーを用意しておきましょう。

相続人間で意見が対立し協議が成立しないときは、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。

調停でも合意できなければ審判となり、最終的には裁判所が法定相続分等に沿って分割方法を決定します。

裁判所に持ち込むと時間も費用もかかるため、できれば話し合いでまとめるのが得策です。

ただし不公平感が強いケースでは専門家(弁護士・司法書士など)を交えて調整するとスムーズになることもあります。

注意点として、相続人全員が参加し合意することが必要です。

一人でも欠けると協議は無効となります。

たとえば相続人の一人が行方不明なら不在者財産管理人を立てる、未成年者がいるなら特別代理人を選任する等の対応が必要です。

遺言書がある場合は、遺言で指定された財産分けが優先されます(遺言に書かれていない財産だけを対象に協議することになります)。

法定相続分と異なる分け方でも協議が成立すれば有効ですが、極端に特定の相続人に偏る場合、他の相続人が後に遺留分侵害額請求(後述)する可能性があります。

公平性や将来の人間関係も考慮して分割内容を決めることが大切です。

相続税の特例適用要件に「申告期限までに分割されていること」が条件のものがあります。

たとえば配偶者控除(1億6千万超でも全額非課税)や小規模宅地特例(土地評価減)は、期限内に遺産が分割されているかどうかで適用が認められるか影響します。

もし期限までに協議が整わない場合、「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出すれば、一部特例について猶予的に適用を受けられる制度もありますが、いずれにせよ早期分割が望ましいです。

さらに、不動産をどの相続人が取得するかで相続登記義務の負担者も変わってきます。

配偶者居住権など新しい制度も踏まえ、税理士・司法書士と連携して最適な分割内容を決定するとよいでしょう。

遺留分侵害額請求(必要な場合)

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者・子・直系親)が最低限確保できる相続財産の取り分のことです。

もし遺言などによって遺留分を侵害される事態(本来もらえるはずの最低額を下回る)が発生した場合、侵害された相続人は他の受遺者や相続人に対して遺留分の取り戻し(侵害額の金銭請求)ができます。

遺留分を主張する人を遺留分権利者、相手方(遺留分を侵害して多く財産を得た人)を受遺者・受贈者といいます。

被相続人の配偶者、子(代襲相続人含む)、直系尊属が遺留分権利者です。

兄弟姉妹や相続放棄した人には遺留分はありません。

遺留分侵害額請求は内容証明郵便等で意思表示するのが一般的です。

まず相手方に対し「○○の遺産分割・遺言によって自分の遺留分が侵害されているので、△△万円を請求します」と通知します。

それで交渉がまとまれば支払を受けて解決です。

合意しない場合は家庭裁判所に調停を申し立て、さらに不調なら訴訟で争うことになります。

訴訟になれば裁判所が遺留分額を算定し支払を命じる判決を下す流れです。

遺留分侵害額請求権は、相続開始及び侵害を知った時から1年以内に行使しないと時効で消滅します。

遺言書が開封されて自分の取り分が少ないと知った時から1年、または相続開始から10年(最長期間)で権利消滅となります。

したがって、遺言の内容に不服がある場合は早めに行動しましょう。

一年を過ぎると請求できなくなるため注意してください。

遺留分は財産の評価額や計算方法が法律で決まっており、請求額の根拠を明確にする必要があります。

相続財産の価額や債務、遺贈・贈与の額によって遺留分額が変わるため、専門家(弁護士)に相談して算定する方が安全です。

請求された側も、その金額が妥当か否か検討しなければなりません。

話し合いでまとまらなければ裁判となり、精神的負担もあるため、できれば遺産分割の段階で遺留分に配慮した配分を検討することが望ましいです。

たとえば特定の相続人に多く遺したい場合でも、生前に他の相続人に対し代償金を用意するなどして、遺留分争いを防ぐ工夫が考えられます。

なお、遺留分侵害額請求は権利であって義務ではありません。

請求しなければ、そのまま遺言通りの分配が行われます。

他方、請求された側は拒否できず、正当な遺留分額は支払わねばなりません。

以上のように、本手続きは全員に必要なわけではなく、特定の場合に発生し得る争いですが、念のため期限を記載しました。

死亡後1~3年以内に必要な手続き

ここからは、相続開始から1年以降~数年内に行うべき以下の手続きを説明します。

  • 健康保険の高額療養費・葬祭費など各種給付金の請求
  • 国民年金の死亡一時金の受取請求
  • 不動産の相続登記(名義変更手続き)
  • 生命保険金の受取手続き

一部は法定の期限が定められているもの、その他は権利の時効に関わるものです。

以下からは、それぞれについて見ていきましょう。

健康保険の高額療養費・葬祭費など各種給付金の請求

被相続人が生前に加入していた公的健康保険から受け取れる給付金があれば、所定の手続きを行います。

代表的なものは高額療養費と葬祭費の二つです。

それぞれについて、次の表にまとめました。

種類 内容・概要 請求先 必要書類 請求期限
高額療養費 ・亡くなる前に支払った医療費が自己負担上限を超えた分を払い戻す制度・遺族が代理で請求可能 加入していた健康保険(国民健康保険=市区町村、協会けんぽ・組合健保=保険者) ・医療費の領収書・申請書・振込先口座情報 など 診療月の翌月初日から2年
葬祭費(国民健康保険) ・国民健康保険加入者が死亡した場合、喪主などに葬祭費が支給・多くの自治体で約5万円程度 市区町村(国民健康保険担当) ・葬儀費用の領収書・会葬御礼等の書類・喪主を確認できる書類 葬儀翌日から2年以内
埋葬料(協会けんぽ・組合健保) ・会社員等の被保険者が死亡した場合、被扶養者へ支給(定額5万円など) 協会けんぽ or 健康保険組合 ・埋葬料請求書・死亡診断書の写し・住民票除票・喪主が確認できる書類 死亡翌日から2年以内
埋葬費(協会けんぽ・組合健保) ・実際にかかった葬儀費用を上限(例:10万円)まで支給 協会けんぽ or 健康保険組合 ・葬儀費用の領収書・その他保険者が求める書類 死亡翌日から2年以内

どちらも請求しなければもらえないため、忘れないよう、死亡届提出時に役所の窓口で案内を受けましょう。

自治体によっては死亡届提出時に葬祭費の案内パンフレットを渡してくれるところもあります。

どの手続きをどこにするか不明な場合、健康保険証を返却する際に係の人に尋ねると教えてもらえます。

2年という期間は比較的長く感じますが、請求漏れに気付かないまま経過することもありますので、他の相続手続きと一緒に早めに片付けてしまいましょう。

国民年金の死亡一時金の受取請求

被相続人が国民年金保険料を一定期間納付していたものの、老齢基礎年金や遺族年金を受け取ることなく亡くなった場合、その遺族に対して死亡一時金が支給される制度があります。

自営業の方が老齢年金をもらう前に亡くなったケースなどで、払い損にならないよう保険料納付状況に応じ一定額を遺族に支給するものです。

死亡一時金を受け取れる遺族は、被相続人と生計を共にしていた配偶者,子,父母,孫,祖父母,兄弟姉妹の順で、先順位者がいなければ次の者が請求できます。

なお、遺族基礎年金や寡婦年金を受給できる場合は死亡一時金は支給されません(二重給付なし)。

簡単に言えば、遺族年金の対象にならない人(たとえば子のない妻など)が受け取れる可能性がある給付金です。

保険料納付済期間が3年以上あれば支給対象となり、その納付期間に応じて12万円~32万円(付加保険料納付があれば+8,500円)と定められています。

請求先は住所地の年金事務所または市区町村の国民年金担当課です。

必要書類は以下の通りです。

  • 国民年金死亡一時金裁定請求書
  • 亡くなった方の年金手帳や基礎年金番号がわかる書類
  • 亡くなった方の住民票除票
  • 請求者の戸籍抄本
  • 世帯全員の住民票
  • 請求者の身分証
  • 受取先金融機関口座通帳など

また、亡くなった方と請求者が別世帯で住民票上住所が異なる場合は、生計同一関係に関する申立書および第三者証明書も求められます。

死亡一時金は、国民年金保険料を3年以上納めた被保険者が対象です。

請求は死亡日の翌日から2年以内が目安です。
特に、亡くなった方が自営業等で国民年金に長年加入していたが、受給前に急逝した場合、この給付金を忘れずにもらうようにしてください。

死亡一時金は遺族基礎年金(子のある配偶者や子に支給される年金)とは選択制です。

たとえば子のない妻が支給対象者の場合、5年間の寡婦年金か死亡一時金かを選ぶケースもあります。

通常は、子のある配偶者は遺族基礎年金が優先されるので死亡一時金は発生せず、子のない妻等が対象になりえます。

いずれにせよ請求しないともらえない給付金なので、条件に該当するか年金事務所で確認すると良いでしょう。

額は最大32万円程度ですが、公的な権利として取得しておきたいものです。

不動産の相続登記(名義変更手続き)

被相続人が所有していた不動産(土地・建物)の名義を相続人に変更する手続きです。

2024年4月1日施行の改正不動産登記法により、相続登記の申請が義務化されました。

相続により不動産を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に登記申請をしなければなりません。

第76条の2(相続等による所有権の移転の登記の申請)

第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。

引用元:不動産登記法 | 第76条の2

不動産の所在地を管轄する法務局(登記所)に申請しましょう。

相続登記はオンライン申請や郵送も可能です。

相続登記に必要な主な書類は、次の通りです。

書類名 内容・ポイント
登記申請書 ・相続を原因とする所有権移転登記申請書
・申請人(相続人)の氏名
・住所、不動産の表示を記載
・登記原因「○年○月○日 相続」およびその原因日付(死亡日)を記載
・取得分(持分)も明記
登記原因証明情報 ・相続により取得したことを証明する書面
・遺産分割協議書(全相続人の実印+原本を提出)
・遺言書がある場合
└ 公正証書遺言 → 謄本
└ 自筆証書遺言 → 検認済証明書付き原本/謄本
相続関係を証する書面 ・被相続人の除籍謄本
・改製原戸籍
・相続人全員の戸籍謄本一式
・または 法定相続情報一覧図(写し)(2024年以降はこちらの利用推奨)
住民票・戸籍附票 ・不動産を取得する相続人の住民票
・被相続人の最終住所を示す戸籍附票または住民票除票
固定資産評価証明書 ・登録免許税を算出するための評価額が記載された証明書
・市区町村で発行
・その年度の課税明細書でも代替可
登録免許税 ・相続登記の登録免許税=不動産評価額の 0.4%
・収入印紙を申請書に貼付
本人確認書類 ・申請人の運転免許証などのコピー(窓口申請時に求められる)
代理権限証書 ・司法書士などに依頼する場合の「委任状」

相続開始を知った日から3年以内に登記申請を行わなければなりません。

たとえば2024年4月2日に死亡した場合、2027年4月1日までに申請が必要となります。

2024年4月1日より前に発生した相続についても義務化の対象で、施行日から3年以内(つまり2027年3月31日まで)に登記しなければなりません。

第76条の2(相続等による所有権の移転の登記の申請)

第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。

引用元:不動産登記法 | 第76条の2

こうした義務に正当な理由なく違反すると、10万円以下の過料を科される可能性があります。

また、相続登記を放置すると不動産の所有者が不明になり、後々売却や利用が困難になる社会問題(所有者不明土地問題)を招きかねません。

さらに次の世代に相続が発生した際に権利関係が複雑化し手続きが困難になるといったリスクもあるため注意が必要です。

相続登記をするには遺産分割協議が整っていることが前提です(法定相続分のまま共有名義で登記することも可能ですが、後で結局分割協議が必要)。

まだ協議がまとまっていない場合、とりあえず法定相続分で登記(法定相続登記)するという方法もあります。

その後協議成立後に持分移転するか、または相続人申告登記制度(相続人であることを申告しておくだけの簡易な登記)を利用することも可能です。

しかし原則としては、協議書ができたら速やかに登記申請するのが理想です。

なお、不動産ごとに取得者が異なる場合、申請書は物件ごとまたは一括で出せます。

一度の申請で複数不動産の相続登記ができますが、管轄法務局が異なる場合はそれぞれ提出します。

また、不動産以外の財産(預貯金、株式、自動車など)の名義変更もこの時期に行いましょう。

預貯金等は法定の期限はありませんが、凍結された口座は早めに解約手続きしないと不便です。

不動産の相続登記完了には法務局で1~2週間程度かかります。

新しく登記名義人となった相続人には登記識別情報通知(旧権利証)が発行されますので、大切に保管してください。

生命保険金の受取手続き

被相続人が生前生命保険に加入しており、死亡保険金の受取人が指定されている場合、受取人は保険会社に対して保険金の請求手続きを行います。

生命保険金は受取人固有の財産であり、原則として相続財産には含まれません(「みなし相続財産」として相続税計算には入りますが、民法上は受取人のもの)。

従って、相続手続きとは別に受取人自身が保険会社へ請求する必要があります。

加入していた保険会社(契約のある生命保険会社)の所定の死亡保険金請求書に記入し提出します。

一般に必要となる書類は、以下の通りです。

  • 被保険者(被相続人)の死亡を証明する書類:死亡診断書(保険会社所定の用紙に医師が記入したもの)や死亡届受理証明書
  • 受取人の本人確認書類:運転免許証やマイナンバーカードのコピー等
  • 受取人と被保険者の関係書類:戸籍謄本(たとえば受取人が配偶者なら婚姻関係がわかる戸籍、子なら親子関係がわかる戸籍)
  • 保険証券(保険契約書):紛失していても請求はでき、あれば提出
  • 振込先口座情報:通帳やキャッシュカードのコピー等

上記は保険会社によって多少異なるため、担当の保険外交員や保険会社コールセンターに連絡して確かめましょう。

多くの生命保険会社では保険金請求権の時効は3年と約款で定められています。

2020年4月の民法改正で一般的な債権の消滅時効は5年に延長されましたが、保険金請求権については保険法上は3年のまま(保険契約による定め)というケースが多いです。

第166条(債権等の消滅時効)

第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。

二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

引用元:民法 | 第166条

実際、生命保険各社の約款では概ね3年としていることがほとんどです。

ただし、万一時効が過ぎても事情によって保険会社が支払うケースもあり得ますが期待はできません。

したがって3年以内を一つの期限と考えて早めに請求しましょう。

受取手続きの進め方は以下の流れです。

  1. 保険会社に電話して死亡の報告
  2. 保険金請求の必要書類一式が送られるまたは担当者が訪問
  3. 必要事項を記入し、上記の書類を添付して提出
  4. 書類に不備がなければ、通常は請求から1~2週間程度で指定口座に保険金が振り込まれる

生命保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があり、それを超える部分は受取人ごとに相続税の課税対象となります。

ただし、受取人が配偶者であれば配偶者控除で相続税非課税になるケースも多いです。

税務申告については相続税申告の際に保険金も含めて計算することになります。

生命保険金自体を受け取る手続きと、相続税申告上の処理は区別してください。

被相続人が複数の保険に入っていた場合、それぞれ請求漏れがないよう注意します。

「契約者=被保険者=被相続人」で受取人が相続人という典型的な契約では、前述のとおり保険金はその受取人の固有財産なので遺産分割の対象ではありません。

他の相続人から「生命保険金も遺産だ」と主張されることがありますが、法律上は含まれないため遺産分割協議で保険金を計上する必要はありません(ただし遺留分算定には考慮されます)。

受取人が亡くなった方自身だった場合(まれにありますが、その場合保険金は相続財産となり、法定相続人に分配されます)や、受取人全員が被相続人より先に死亡していた場合などは扱いが複雑になるため、保険会社に確認してください。

また、共済保険などの場合も、概ね生命保険と同様に3年の請求期限となっていることが多いです。

損害保険(たとえば死亡事故による賠償金請求等)も時効管理に注意が必要です。

いずれにせよ、生命保険金は手続きをしないともらえないため、忘れず請求することが肝心です。

金額も大きいことが多いため、他の相続手続きに追われていても優先的に対応しましょう。

期限の定めがないその他の手続き(なるべく早く行うべきもの)

最後に、法律上明確な期限は定められていないものの、早めに対応したほうが良い手続きについて触れておきます。

具体的には、銀行預金・証券・自動車などの名義変更手続きや、各種解約手続きなどです。

それぞれについて、以下の表にまとめました。

種類 手続き内容 必要書類 注意点・期限
銀行口座の解約・名義変更 ・死亡通知後、銀行口座は凍結・相続人代表が払い戻しまたは相続人名義へ振替手続き ・遺産分割協議書または全員署名の払戻請求書・相続人全員の実印・印鑑証明書・被相続人の戸籍・除籍謄本・相続人全員の戸籍謄本 ・法定期限なし・生活資金に影響するため早めが望ましい・銀行によって書類・手続きが異なる
有価証券(株式・投資信託)の名義変更 ・上場株式:証券会社で相続手続き・非上場株式:会社に株主名簿の書換依頼・投資信託:金融機関で名義変更 ・遺産分割協議書 等・相続関係書類(戸籍等) ・法定期限なし・価格変動するため協議を早めに進めることが重要
自動車の名義変更(移転登録) ・運輸支局で相続による移転登録を実施 ・遺産分割協議書・被相続人・相続人の戸籍類・車検証・委任状(代理申請の場合) ・法定期限なし・車検・保険更新時に不都合あり・自動車税は4/1時点の所有者に課税されるため早めの変更が良い
各種解約・変更(クレジットカード、携帯、公共料金、賃貸等) ・故人名義の契約を順次解約または名義変更・郵便物転送手続きも可能 ・契約ごとに異なる(例:カード会社への死亡連絡、公共料金の契約番号など) ・法定期限なし・放置すると料金発生や二重払いの恐れ・郵便物転送サービスは1年間利用可能

こうした手続きは期限がないため後回しにしがちです。

しかし、放置すると不便やトラブルが生じる可能性があるため、早めに取りかかりましょう。

各段階で煩雑な手続きがありますが、一つずつ期限内に対応していけばスムーズに相続手続きを終えられます。

不安な場合は専門家に相談することも検討してください。

期限を守って相続手続きを確実に終えるためにも、早めに専門家に相談することが大切!

相続手続きは多岐にわたり、戸籍収集から遺産分割協議、相続税申告、不動産の相続登記まで煩雑で時間のかかる作業です。

本記事で述べたように、それぞれの分野で専門知識が要求され、期限管理も必要になります。

静岡県で相続手続きにお悩みの方は、静鉄不動産と専門士業の相続サポートセンターへご相談ください。

静鉄不動産と専門士業の相続サポートセンターでは、司法書士・税理士・行政書士など、相続の専門家がチームで連携し、相続人調査・不動産評価・遺産分割協議書作成・相続税の試算・相続登記までをワンストップでサポートしています。

「何から始めればいいかわからない」「相続人同士の調整が不安」「不動産の扱いが複雑」という方でも安心して相談できる体制が整っています。

専門家がお客様の状況を丁寧にヒアリングし、最適な相続プランをご提案します。

相続の手続きを確実に、期限内に終えたい方は、ぜひ静鉄不動産と専門士業の相続サポートセンターをご活用ください。

電話でのお問い合わせ

お問い合わせの電話番号リンク

メールでのお問い合わせはこちら

記事監修者
司法書士 川上直也

当センターの受付を担当しております。

司法書士になる前は、特別養護老人ホームで約10年間介護職に従事しておりました。そこで法律に悩む高齢者の声に触れ、「気軽に相談できる法律の専門家の必要性」を感じ、司法書士を志しました。

ご相談には丁寧に耳を傾け、安心して話せる環境づくりを大切にしています。相続などでお困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。

相続相続対策

コメント